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それからというもの、彼女は毎日の様に俺に会いに来た。
会いに来た、という表現が正しいのかはわからないけれど。
『楽しそうにしてるから安心した』
此処の先生がそう言っていたのを思い出す。
どうやら彼女、病院の個室に戻ると嘘の様に笑顔を見せないらしい。
つまり、俺と会話をしているこの時間だけは彼女にとっての息抜きの場でもあるのだろう。
それは単純に嬉しかった。
紫「そろそろ戻らな、また怒られるやろ」
「あ、関西弁!」
また、息抜きというのは俺に取っても同じになりつつある。
彼女との時間が何時しか楽しみになっている事に俺は既に気づいていた。
「いいよね、関西弁!私も使ってみたいなぁ」
総合病院の跡取り息子。
そういう肩書きを持っているだけでありとあらゆる奴らが俺に寄ってたかってくる。
その度、俺自身には何の価値だってないのだといつも思い知らされてきた。
だけどただ一人、彼女は違った。
肩書きとかそんなもの彼女には関係ないのだろう。
それはきっと彼女が病人だからでもあるのだけれど、何より彼女の心が汚れを知らない真っ白なままだからだと思う。
それは羨ましく、また愛おしくもあった。
紫「夏休みが終わるから、暫く君とはお別れだよ」
けれどその、俺の心に芽生え始めた小さな淡い感情は彼女の前では隠し通さなければいけなかった。
彼女と向き合う上で忘れてはいけない事がある。
彼女はいつ死んでしまうかわからないという事。
懐玉有罪、とはこういうことを言うんだろうか。
どうして災いを受けたのが彼女なのだろう。
まだ、こんなに幼くて純白な生き物だというのに。
「...そっかあ。それは悲しくなるね」
紫「そうやね、だから...」
「でもね、私も此処とはお別れだと思う。
平野先生に言われたの。」
良かった。彼女の病気は治ったのだと早とちりして喜んだ。
そしてもう二度と、会う事はないのだと悟った。
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作者名:ふる | 作者ホームページ:http://twitter.com/ei_njo
作成日時:2017年10月7日 15時