君と、恋の話がしたい。 (ページ32)

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何だか俺はふわふわしていた。

帰り道、彼女が差し出してくれたキャンディをなめてみる。
キャンディなんていつ振りだろう。
俺が小学生の頃とかそのくらい前だ。

右頬から左頬へとキャンディを渡す。
なんだかそれが妙に楽しくて可笑しい。
いつもは憂鬱に思っていた商店街の賑わいも、子供達の戯れ合いも、眩しく光る太陽も今の俺には気持ちを高揚させる材料でしかない。
この甘い小さな爆弾に仕掛けられた罠にまんまとひっかかっている。
こんなのはバカバカしいけど、だけど本当に効力があるんだから別にいい。
彼女はすごい。

『おかえりなさい』

彼女の言葉に心を動かされたといえば大袈裟だけど、だけど確かに変わったものがあった。
だからどうしても母さんに言いたい事があった。

海「ねえ、母さん。ごめんね。」

『何、どうしたの急に。』

海「受験、失敗しちゃってごめん。凄い今更なんだけど」

本番に弱くてごめんなさい。
働きににいかせてばかりいてごめんなさい。
俺自身、何もできなくてごめんなさい。

『ずっとそう思ってたの？』

海「....公立の高校に行かなくちゃいけないって」

『どうしてよ』

海「.....お金、かかるでしょ。」

母親と初めて生々しい会話をした。
仕方がない。言いたいことはきちんと言わなくちゃいけないから。

『海人。そんなことどうして貴方が考える必要があるのよ。』

海「えっ」

『お母さんね、海人は凄いと思う。
誰よりも優しい子になった。』

海「え」

『だけどね、親にそうやって優しさを見せる必要ないの。お金の事なんて海人が気にする事じゃない。それにね、いくらかかったってそんなのどうでもいいのよ。』

ずっと辛かった。
母さんに謝りたくて、それができなくて。

『今だって、これからどんな道に進んでもね。
海人が楽しいって思えるんだったらそれでいいの。そしたらお母さんも嬉しい。』

母さんが俺に抱く想いは痛いほど伝わった。
思えばそうじゃないか。彼女が言う通り、俺は両親に圧をかけられた事もないし姉と比べられた事だってない。全部自分が勝手にそう思っていた。

『でも凄いなぁ。海人はお姉ちゃんより大人だね。あの子はそんなこと気にもしてなかったもん』

海「いや...ごめんね。それだけだから」

涙が溢れそうになったから、慌てて自分の部屋に駆け込んだ。
嬉しいのか悔しいのか悲しいのか色んな気持ちが混ざり合った涙は暫く止まらなかった。

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