君と、恋の話がしたい。 (ページ21)

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『....私立か』

『ねえやめなさいよ。海人起きちゃう』

寝る前に水を飲もうとリビングに向かおうとした。
母親と父親のその会話を聞いた途端、踵を返して部屋に戻る。

.....俺の話だ。

四つ歳上の姉がいる。
姉は多才で陽気で人当たりがいい。
特技と言える特技がなくて、どちらかといえば根暗で愛想もない俺とはオセロの白と黒かのように何もかも違う。
期待のされようだって、そうだ。

姉はピアノの全国コンクールで優勝したことがある。
その時、母親は涙を流して喜んだ。
普段は厳しい父親も珍しく姉の事を褒めていた。
俺だって姉の勇姿に感動した。
誇りだと思った。
これが俺が14の時の話。

家庭内で姉の大学受験の話が持ち上がると、つい先日賞をとった姉は「留学したい」と言い出した。
勿論、ピアノでだ。

両親は初めのうちには反対したものの、直ぐに姉の留学に期待と希望を持ち始めた。
何かとあっさりと決まった姉の進路。
俺は口なんて挟むこともなく、ただぼーっとその様子を眺めていた。

姉がイタリアに飛び立っていった。
同時に、俺は中学三年になる。

俺も必然的に進路を決めなければいけなくなった。
姉のように何か特別にできることはなかった。
だから普通に勉強をして普通に高校に入る事を決めた。

二千万。四年間の留学費用で二千万。
本当に偶然、テーブルに置きっぱなしにされていた書類にそう書かれていたことを思い出す。

家は貧乏なわけでもないけど特別に金があるわけでもない。
二千万、という数字の大きさは俺にだってわかった。

これに加えて今年は俺の受験代。
塾に通わせてもらう費用だってきっとそれなりにする。
となると、俺は授業料のない公立の高校に通ってほしいというのが両親の願いだろう。

『海人、いつも勉強してんな』

丁度この時辺りから、周りの声がうるさいと感じ始める。
追い込まれる事もなく、淡々としている同級生に疑問を抱く。

お前だって受験生だろ。
心の中でそう言ってやった。
後から痛い目を見るのはお前らだ、と。

俺は必死になった。
誰に何を言われたわけでもなく。

ただ、姉の心配に手一杯な両親達に迷惑をかけたくないと思う一心で。

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