第一章 獣の天使 ページ20
「奥宮さんってたしか家と学校近いよね?」
「うん。歩いて30分くらいかな」
どのくらい経ったか分からない。
亀裂と穴と、死体だらけの通学路を歩き、着々と自分の家に向かっていた。私の後ろを、ガーナくんにおぶられたメイジくん、ふわふわと宙に浮くシエラちゃん、そしてあたりを見回しながら最後尾にゼットさんがついてくる。私の隣には九条さんがいて、いろいろと私に話しかけては笑っていた。
ぶっちゃけ九条さんとは話したことがない。ときどき変ないたずらを仕掛けては、先生たちに怒られていたのは見たことがある。あまり友達からは好かれていなかったような気がする。「変人」扱いされていたけれど、こうして喋る分には、やっぱり普通の子だな、なんて考えていた。
住宅街に差し掛かると、損傷の激しい家とそうでない家の差が激しくなってくる。近所でよく吠えていた大型犬の野太い鳴き声も今は聞こえない。寂しい。なんとなくそう思う。
「ここを左に曲がって……」
案内しようとして、足が止まった。
私の家は、左に曲がって三軒目。白い壁は、周りと比べて一層激しく破壊されていた。……どうして。
いや、分かってる。だって、お父さんも、お母さんも、私が出かける前は家でくつろいでいたし。
駅前であったことを思い出して、ぐるりと視界が回りだす。予想はしていたはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
ふわりと、私を星空が包み込んだ。
「……だからあまり気が進まなかったんだ。人間の世界では”百聞は一見にしかず”というんだろう?」
「ちょっと使い方違うけどな」
シエラのおかげで少し落ち着いてきて、自分から羽をどける。「あれ」と小さく驚いたようにシエラが声を上げる。私はそのまま、自分の家の門まであるき出した。
「おい、奥宮。本当に大丈夫なのか?」
「……大丈夫」
「全然大丈夫じゃないだろ、その声」
「大丈夫」
この先で、私のお父さんとお母さんは死んでいる。
きっとひどいありさまなんだろう。いつもの光景などとっくの昔に消え去った。私が安心して過ごせる場所なんてもうないんだ。
扉の門を開ける。お母さんの趣味で、少し洋風な形をした、黒い鉄格子。すでに何かで歪んでいたらしく、中途半端なところで開かなくなる。自分の力だけでは動かせそうにない。
「ちょ〜っとごめんね」
「ぜっ……!!」
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