たとえばここが、世界の果てでも (ページ49)

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この家に持って帰って来た食料と言えるものは、茶葉だけだった。

「…あとで、ミルク買いに行って来ますね。」

ストレートでごめんなさい、とつけ足して、樹さんにあったかい紅茶を渡す。

無言でそれを受け取った樹さんは、マグカップを両手で持って、ベッドの縁に
腰掛けて紅茶を啜っている。

声をかけてみると、ゆっくり上がった顔は、目が虚ろだった。

サイドテーブルにマグカップを置いて、樹さんは両手で顔を覆う。

「……なんで…。」
「？」

続きを待って、私は無言のまま樹さんの隣に腰掛ける。

「…俺には、」
「…はい、」
「……幸せになる権利なんて、ない、のかも、」

そう言って、樹さんはうつむいたまま黙り込んでしまった。

「……樹さん、」
「……ん、」
「私たち、やっと自分の傷を癒してくれる、傷を癒してあげたい
相手が現れたところ、ですよね、」
「………。」
「傷の舐めあいでもいい、って、樹さん、おっしゃってました。」

うつむいたままの樹さんに向かって、一方的に話しかける。

「私も、そう思います。」
「……A、」

うつろな目で私の名前を呼ぶ樹さんの前に膝立ちになって、正面から抱きしめた。

「私も、樹さんのこと放したくありませんし、側にいたい、と思ってます。」

腕に、ぎゅ、と力を入れると、樹さんが腕を伸ばして私を抱きしめ返す。

「A。」
「…はい。」

そのまま、私たちはお互いが消えてしまわないように、抱きしめあっていた。