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樹さんの手伝いをしていると、「A！」と声をかけられる。
樹さんとふたりで声の方を振り返ると、そこには肉屋のおかみさんがいた。
肉屋のおかみさんは、私のところに駆け寄ってきて。
「どこに行ってたんだい！」
と言った。
「……ぇと…。」
「あれから一度も市場に来ないから、みんな心配してたんだよ！？」
「…ご心配をおかけしました。」
小さく頭を下げると、「無事ならいいんだよ、」と笑ってくれる。
「……どこかに行くのかい？」
「はい、来週から大学が始まるので、家に帰ります。」
お世話になりました、ともう一度頭を下げる。
「………で。少佐もお出かけかい。」
聞こえないくらい小さな声で「少佐じゃねぇよ。」と吐き出して。
「まぁな、」
とだけ答え、荷物を積んでいる。
「アンタ。Aに余計なちょっかいかけるんじゃないよ。」
「…あ？」
樹さんが、顔をこわばらせて、おかみさんの顔を見ている。
おかみさんが何か言おうと口を開いたところで、私は、ふたりの間に
割って入った。
「そ、それでは、あの、お世話になりました、あの、いつか、必ずまた、来ます、」
弱々しい声でたどたどしく告げると、樹さんが私の方に体を向けて
髪を梳いてくれた。
「行くぞ、A。」
さっきとは打って変わった優しい声で、髪を梳いていた手を降ろして
そのまま頬を撫でる。
はい、と返事をして樹さんの隣に乗り込んだ。
「A！」
おかみさんの声色は、決して私たちの間柄を歓迎しているものではなかったけれど。
私を乗せた樹さんのオートモービルは、そのまま出発して。
そのまま、軍の基地方向へと向かって行った。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年3月28日 1時
