たとえばここが、世界の果てでも (ページ35)

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私が家に帰るまでの数日。

食事に行くとき以外はずっと、樹さんの別宅にこもって過ごした。

何をするわけでもなく、ふたりで並んで座ってお茶を飲んで、ぽつぽつと言葉を紡いで。
時々、外に出て手をつないで散歩をして。
少し遅い時間の夕食、樹さんのオートモービルで帰る夜更け、帰宅して私が本を読んでいる隣に
樹さんが座って、時々唇が触れて。

何もない、穏やかな数日間が過ぎた。

今日は、私の家にふたりで帰る日。

「しばらくここには戻って来ねぇから、メンテナンスの時期にはちょっと早いけど。」

樹さんはそう言って、出かける準備をしていた。

「俺の荷物とかもまとめるし、一度自宅に戻る。」
「はい。」
「Aは？」
「…えと、」
「……行く？一緒に。」

片方の眉を上げて、樹さんが手を差し出す。

「行き、ます、」

ん、と、ひとことだけ、少し嬉しそうな声で返事が返ってきて。

「じゃ、行くぞ。」
「はい。」

運転席に座った樹さんが、眼鏡をかけた。

数日戻らなかっただけで、少し懐かしいような気持ちがする。

部屋の奥から大きなトランクを出してきた樹さんは、服や愛用している工具をそこに詰めて。
しばらく使わない家具たちに、真新しいシーツを被せていた。

パントリーの中から、チーズやワインを全部出して、中を空っぽにする。

「…結構あったな、ワイン。」

自分でも予想してなかったらしいそのボトルの数は、結構な量で。

「ま、今から行くところにおすそ分けするか。」

そう言いながら荷物を積んだ。