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鍋に水を入れて、火にかける。
その間に、茶葉と牛乳を用意して、お湯が沸くのを待った。
はぁ、と小さく息をつく私の顔をのぞきこんで、「落ち着いた？」と聞かれる。
「はい、だいぶ。」
「…ん。」
小さく表情を動かして、髪を梳いてくれた。
少しずつ水の温度が上がっていく様子を見ながら、樹さんが口を開く。
「………俺たちは。」
「……はい、」
「確かに傷の舐めあいをしてるだけかもしれねぇけど。」
「……はい、」
「俺は、別にそれでもいいと思ってて。」
「……は、い。」
「ほとんどの人にとっては、もう戦争って終わったことで、過去のことになりつつあるだろ？」
「はい。」
「けど、Aも俺も、戦争中からずっとひとりで生きてきた。」
「…はい。」
傷を癒してくれる誰かも、傷を癒してあげたい誰かも、いなかった、そう言って私を抱き寄せる。
「みんなはもう前を向き始めてるかもだけど、俺たちはやっと、癒してくれそうな
相手が現れた、っていう段階なわけ。」
だから、と、言いながら、樹さんは私の顔を上に向けさせる。
「俺は多分、ずっとお前を手放せないし、そばに置いておきたい、と、思ってる。」
そう言いながら、私の髪を耳にかけてくれていると、義手が、かちゃ、と音を立てる。
そのまま、樹さんの右手が私の頭を固定して。
ゆっくりと私の唇を食べた。
「ん、じゅ、っ、」
「くち開けて？」
樹さんの舌が、ゆっくりと私の舌を絡めとっていく。
やさしくて、甘くて、蕩けてしまいそうなキスで、意識がふわふわして。
このまま、流されてしまうかもしれない、と少し迷いを感じたそのとき、
お湯が沸く音が聞こえた。
くちゅ、と音を立てて、樹さんが唇を離していく。
ふたりの間に、細い糸が引いているのに気がついて、頬が熱くなるのがわかる。
樹さんは、優しい目をして、私の唇を親指で拭ってくれた。
「……この続きは、まだ焦らなくてもいいと思うんだけど、どう思う？」
樹さんが、額をこつんと合わせて口の端を小さく上げる。
「…私も、そう思います。」
そう答えると。
樹さんは、うん、と呟いて。
壊れ物を扱うみたいに、優しく抱きしめてくれた。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年3月28日 1時
