検索窓
今日:7 hit、昨日:28 hit、合計:67,704 hit

20 ページ20

樹さんの家に来て、もうすぐ3週間となったある日。


今日も、樹さんは私の時計を修理する作業をしてくれていて、私は
その近くで勉強をしている。

すると。



ジリリリ、と、伝声管の呼び出しベルが鳴った。

蓋を開けると、交換手の声がする。


「A、出なくていいぞ。」
「え、ですが、」

少し躊躇している間に、交換手が切り替え作業をしてしまった。



『田中少佐のお宅ですか』
「え、あ、は、」
『あんた、家族の人かい。少佐は元気かい?』
「あの、どちらさま、」


『いいね!少佐は失ったのが右腕だけで!!』


「…………え…?」


『返しておくれよ!うちの人も!!息子も!!!!!』



伝声管から、悲痛な叫びが部屋に響く。



『少佐の船に乗ってうちの人と息子は死んだんだ!なんで!なんで少佐だけが!!!』
「あの、ちょっと待ってください、」
『戦争には勝ったかもしれないけどね!うちの人は帰っちゃ来ないんだよ!!!』

泣きながら叫んだ声の主は、言うだけ言うと、通信を切った。


呆然と立ち尽くしていると、背後で樹さんが立ち上がる気配がして。



そのまま、樹さんは私の方に歩いてきて。後ろから手を伸ばすと、伝声管の蓋を閉めた。


何も言えないまま、振り返る。ぎこちない自分の動きに、ギギギ、と音がしそうだと思った。





声にならない声で、樹さん、と、名前を呼ぶ。

樹さんは、今起きた出来事を、小さく鼻で笑う。



「うるせーよ。俺が元気いっぱいに暮らしてるとでも思ってんのか。」


そう言って。

「……A……。」

樹さんは、私を抱きしめると。

そのすらりと大きな背をゆっくり屈めて、私の肩に顔を埋めた。

21→←19



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (103 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
250人がお気に入り
設定タグ:SixTONES , 田中樹 , スチームパンク   
作品ジャンル:SF
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:月華 | 作成日時:2023年3月28日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。