斜陽 ページ18
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歩く。その行為はなんて残酷なのだろう。前を向かなければ、前が見えなければ人は恐ろしくて歩みを進めることなんてできやしない。
前が見えないのに歩みを進められるのは幸せ者と子供だけの特権で、多くの人間はそこにあるかもしれない光を諦めて停滞してしまう。
空を見上げても息苦しい沈黙と虚しい孤独だけが充満していて星なんか見えっこない。いつしか空を見上げる自分が愚かに見えてくる。
自分自身もそうだった。ただただ漆黒の闇の中にいるばかりだった。
「…き!黒木!」
はっと体を引き戻される。それはまるで時間が引き伸ばされたかのような感覚だった。
「いや、何でもない。」
「何でもないわけ、あるか。お前、ずっと俺が呼んでも気づいてなかったんだぞ。」
「いや、悪い。ちょっと考え事をしてたんだ。」
そういうと、あからさまにムッと顔を歪める男。
「なんだよ、何考えてたってんだよ。」
「そいつは秘密、さ。若武センセ。」
あぁ、眩しすぎる。
そのままそこを離れた俺。どうすんだ。恐らく肝心な所で勘のいいアイツは何かを感じてしまうかもしれない。
多分俺にとって若武和臣という人間は対極にある人間なのだと思う。
子供っぽくて、目立ちたがり屋で、純粋で。そして誰よりも眩しく光を放ち、常にヒーローであろうとする。そしていつも誰かのヒーローになり得る。俺と、まるで真逆だ。
"生きる理由が分からない"だなんて言ったら、怒られるのだろう。
だがしかし本当に生きる意味があるのか、そんな馬鹿馬鹿しくくだらない嫌悪すべきことを考えてしまうようになってしまう。
俺の体は俺のものであって俺の物ではない。三住のものであり、黒木家のものである。何が俺を俺たらしめるのか。
そんなものは知らなかった。知りたくもなかった。誰にでも、いくらでも持っている生きる意味が自分になかったらと考えるのが怖かった。
気づけば、空は茜の斜陽が差し、深い夕暮れが降りてきていた。綺麗すぎる自然の力の前に自分がここにいることへの違和感を感じていた。
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あおい(プロフ) - 完結後、読ませていただきました。どのお話も、少し考えさせるような、奥が深いもので、私もこういう小説を書いていきたいです。 (2020年4月28日 7時) (レス) id: 331ddf8f4c (このIDを非表示/違反報告)
りぃあ♪# - 完結おめでとうございます!どのお話も奥が深く、読んでいてとても考えさせられました。とても面白かったです。 (2020年4月18日 8時) (レス) id: 77648adcbf (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 完結おめでとうございます。どのお話もすごく心に残り、自分と重ね合って読んでいました。すごくいいお話だったと思います。 (2020年3月31日 19時) (レス) id: eb71493e70 (このIDを非表示/違反報告)
小幅 - とても面白い作品ですね!続きが楽しみです。 更新、無理しない程度に、頑張ってください! (2020年3月30日 15時) (レス) id: 62007663da (このIDを非表示/違反報告)
はんな(プロフ) - 情景描写がくわしくて、上階が本当に浮かんできます!素晴らしすぎる… (2020年3月28日 11時) (レス) id: 3170240b5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷・結・ゆいなー・あお・ここは x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hp-rei/
作成日時:2020年3月24日 19時