今の願い ページ33
〜倉間side〜
南沢篤志。同じFWで、俺の憧れだった先輩。
その南沢さんが今、稲妻町に来てから行方不明になっている。
倉間「どこに行ったんですか……南沢さん……」
探しています！の紙が貼られた電柱。
その紙にのっている南沢さんの写真を見つめて、俺は泣きそうになるのをこらえて呟いた。
警察が探しているけど、何の手掛かりもない。月山国光の仲間も心配している。
せっかくホーリーロードで雷門が優勝して、自由にサッカーをプレイできるようになったのに。
俺が一番一緒に“本当のサッカー”をやりたかった存在が、いなくなってしまったという現実。
認めたくない。天馬がいない世界、南沢さんがいない世界。
当たり前が当たり前でなくなることが、こんなに辛く苦しいなんて。
俺はふと、いつだったか南沢さんが言っていた言葉を思い出す。
そうだ。あれはたしかホーリーロードで優勝した矢先、サッカー禁止令が法律で制定された直後のことだ。
サッカーが禁止されてしまい何もできないもどかしさを抱えていた時、南沢さんから電話がかかってきた。
南沢『なあ倉間。もしも、魔法で何でもひとつだけ願いをかなえてもらえるとしたら、お前はどうする？』
電話に出た俺に、南沢さんは開口一番そんなことを言い始めた。
魔法とか願いとか、現実主義な南沢さんがそんなことを言うなんてあまりにも意外だったため、よく覚えている。
倉間『そうっすねー。俺はとにかく、このサッカー禁止令とかいうくだらねー法律をどうにかしてほしいですよ。
自由にサッカーできるようになりたいな〜って』
その時の問いに、俺はそう答えた。
冗談でも何でもない。紛れもなく、当時の俺の願いはそれだったんだ。
どういうわけかサッカー禁止令はいつの間にか解除され……
というか、禁止令の原因となったあのくそみたいな日米親善試合が世間で無かったことになり、図らずもその願いはかなったけれど。
そして、俺の今の願いは。
南沢さんを見つけたい。本当にそれだけだ。
倉間「はぁ……魔法とか奇跡とかあればいいのにな」
柄にもなくそんなことを口にした時、ポケットの中のスマホが振動し軽快なメロディを流し始めた。
俺は慌てて目尻に溜まった涙を袖で拭い、スマホを取り出す。
着信が一件。霧野からだ。
倉間「……もしもし？ 霧野？」
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作者名：サリア | 作成日時：2020年2月6日 21時
