2 願いを叶える異能の少女は太宰治と恋をする【文スト】

49　星降夜 ページ9

星瞬く夜、
その願いは、一番最初だけだった。



　お父さんは願った。


“明日絶対遅刻しないよう、早く起きたいんだ”


　私は、祈った。
　願いは叶った。
　その分だけ。

　お父さんの睡眠時間を結果的に減らして。


　お母さんは願った。


“この抽選のコンサート、どうしても行きたいの”


　私は、祈った。
　願いは叶った。
　その分だけ。

　他の誰かを蹴落とした結果を出して。


　友達は願った。


“今度のテストは十位以内に入りたい”


　私は、祈った。
　願いは叶った。
　その分だけ。

　他の誰かの努力を踏み躙った結果を出して。


　クラスメイトは願った。


“意中のあの人と恋人になりたいの”


　私は、祈った。
　願いは叶った。
　その分だけ。

　意中の彼の気持ちを強引に動かして。


　願うのではなく、祈る。


　願いを叶えるのは、異能だから。
　私はただ、異能を使った。


　知らない大人は祈った。


“金を沢山くれ”


　その日、何処かの銀行から一億円程、紙幣が消失したらしい。


　知らない子どもは祈った。


“明日を嵐にして”


　その日、遊園地に行くはずだった他の子どもは悲しみに打ちひしがれて、様々な交通機関が止まって。

　雲や風の動きを無理に働かせたから、他の国や地域で異常気象が発生した。


　私は、祈った。
　その分だけ。


　私は祈った。

　たくさん祈った。


　その分だけ。
　その分だけ、

　叶えた願いの分だけ、


　他の誰かの何かを使った。
　そして、命を使った。


　ほんの数秒から、数十年。


　そんな代償があったなんて知らなくて。


　いっぱい使った。
　いっぱい願った。

　いっぱい奪った。


　みんなのものを。
　私のものもだけど、

　みんなの何かを奪ったことが、辛かった。

50　罪と罰と星→←48　名のない星は宵から出る

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す