2 願いを叶える異能の少女は太宰治と恋をする【文スト】

58　逃した星は大きい ページ18

石Aは虚ろな目で空を眺める。


　空と言っても虚空、
　いつもの部屋の中。
　いつもの箱の中。

　何日か前には、外に出て行ったけれど。
　それは一体、いつの事であっただろうか。


　太宰さんに買ってもらった服も。
　太宰さんに買ってもらった靴も。
　プレゼントしてくれた髪飾りも。

　全部、なくなった。


　あの時、あれらで、
　見た目は変わったけれど、

　私は何にも変わっていなかった。


　特一級危険能力者。

　危険な異能力を持つ者。
　それ以外は特に何者でも、ない。


「そうじゃない人もいるんだろうけど」

　
　では、何故今、こんな気持ちになっているのだろう。

　それは、今、生きているからで、
　死んでいないから。


　何故死んでいないのか？


　死ぬという願いが、
　叶えられなかったから？


　そういえば。


　どうして
　叶えられなかったのだろう。

　どうして
　異能は発動しなかったのだろう。


　いつも通りにやったのに。


　もしかして、太宰さんが？
　もしかして、特別なの？


　でも、
　だって。


　ともかく。


「最初から出会わなければ、生まれて、いなければ……こんな、辛い、気持ちには」


　そう口に出したとき、部屋の扉が開いた。誰か、政府の人間だろうか？

　しかし、全く入ってくる気配がない。


　ごろーんと寝っ転がったままのAが、視線だけ、扉に向けると。



「――――私と同じ時代に生まれたのが、お前の失敗だ」



　という台詞が聞こえて来た。


　すぐに。


　深月ちゃんだ、と思ったのと、
　どうして、とも同時に思った。

　彼女が、入ってくる。


Aは、死体のように転がっていた。


　死んだ魚の様な目をしている。その瞳の中の星は依然としてキラキラしているが、輝いているだけである。


　前と違うのは、頬を伝っているのはいちごジャムではなく、涙の跡。


　辻村深月は意を決して、Aの顔を覗き込んだ。

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