2 文豪グルメ 短編集【文スト】

フョードル・D　蕎麦 ページ41

「フョードルさん、めっちゃ蕎麦感あるよね」

「はあ」


　午前のお茶会中、Aの一言目がそれだった。


「ビジュアル的に、おろし蕎麦」

「おろし？」


　日本語の本をパラパラあける。その単語を見つけたらしい。


「大根？雪みたいですね？」

「美味しいよー。ナメコとオクラをのっけたりして」


　だらんとAはテーブルに腕を投げた。


「黒か白、それに近い滋味の色が似合うなあ」

「滋味……？」


　冷めていく紅茶を見ながら、


「あと落ち着いている感じ？いやほら、蕎麦を打つ時、精神統一感ある」

「そうですか」


　めちゃくちゃ笑顔で聞いてくれているが、恐らく内心は、コイツ何言ってんだで溢れていると思う。


「お昼に蕎麦屋行こうよー。その親和性が合っているかを見てみたい」

「親和性、ですか」

「ニコライ君とかも連れてくから」

「……彼こそ、最も蕎麦が合わないですよ」


　確かに。
　静寂の中、心を落ち着かせ、地味色の蕎麦を啜る。

　ニコライ・ゴーゴリに、日本文化は合わなさそう。まあ逆に、合わせてみたい。


「フョードルさんは、郷に入っては郷に従えって感じで、色々知ってて凄いよね」

「おや、心外です。ぼくはとても真面目な男ですよ」


　およそAが一方的に、而も今日は蕎麦の話しかしていない茶会。
　けれども、とても。


「立ち食い蕎麦屋にフョードル・ドストエフスキー……パワーワード」

「立ち食い…？」


　彼を連れて行くなら老舗の高級料亭、然し立ち食い蕎麦屋も美味しいしなあと。


　で、木製の立ち食い蕎麦屋に、
　サラリーマンとかに混ざって、

　白い毛皮の帽子を被った顔色の悪い男が、
　蕎麦の椀を持っている。

　笑い過ぎてお腹が痛い。


「日本人は座って食事をすると思っていましたが」

「忙しい国になっているからね。ねぇ、行かない？ちゃんと良い店紹介するから」

「嫌ですよ」


　残念！
　何時も、お出掛けは結構笑顔で断られる。

　でも、何時も話は聞いてくれて、嬉しいから。


「はぁー……出前なら良いですか？」

「そんな事でアジトの場所を容易く広めないでください」


　フョードルは、少し笑った。


　だからAも笑った。


　退屈しない、
　意味のない、この茶会は。


　一体何時まで、続くのでしょうか？


　まあ、いつか来る終わりの前に。


　Aさんとお出掛けするのも、
　悪くない、でしょうか。


　それは、
　何時に、なることやら――

フョードル・D＆Ｎ・ゴーゴリ　ボルシチ【花丸様Req.】→←フランシス・F　マカロン

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