太宰治 蜜柑【ハイド様Req.】 ページ5
汽笛の音が耳を揺らし、他に誰もいない車内から見える車窓は穏やかな風景だが、列車から出る真っ黒な煙に覆われていく。
「……ねぇA、森さんは、私達の事気づいたかな」
「あの人は――出てくる前から気付いてそう。でも、今の所追手の気配は感じない」
正面に座る太宰治は頬杖をつき、呆けていた。
「……治、大丈夫?」
「うん、眠いだけ」
体中包帯だらけ、あどけない顔の少年は、微かな光を瞳に宿していた。
「そうだA、甘いの欲しいんだけど」
「はいはい」
鞄から、先程駅で購った蜜柑を5、6個取り出す。
「剥いて」
「もう幹部じゃないのにね、まだ我儘さんだ」
「関係ないっ」
少々膨れっ面の太宰に、そうだねと返し、まず蜜柑を真っ二つにする。
そしてそこから四等分し、ヘタの方から皮を剥けば、白い繊維の付かない、綺麗な楕円の実がコロンと取れた。
太宰が隣に移動してくる。その開けられた口に、橙色を放り込んでやると。
「んっ」
ちょっと嬉しそう。甘い所に当たったのだろう。
Aも一つ口に入れると。
薄い皮が破け、小さいが肉厚の実々が弾け、程良い甘味と酸味が一体となる。
特有の爽やかさが全神経を優しく刺激し、顔も綻んだ。
「蜜柑と言えば、芥川が嫌いだったね」
「へえ、そうなの」
「そうだ治、出てくる時に中原幹部の車になんかしたでしょ」
「ありゃ、見られてた」
笑いながら、互い、また蜜柑を口に放り込む。
それは時に甘くて、
それは時に苦くて、
切なく、身体を満たしてくれる。
「もー、中也とか、あっちの話は今はしないでよね…」
そうして、太宰はAの肩に頭を預けた。本当に疲れているらしい。
「何処まで逃げれば良いだろうか……」
その声は、段々弱くなって行く。
「私は、何処までもついて行く」
静かに言うと、彼は笑った。
「うん。Aがいれば、何もいらない」
それを聞いて、Aも微笑んだ。
「あの人の代わり?」
「違うよ、お馬鹿さん」
そして強く手を握られる。互いの息遣いと、列車の音ばかりが響いていく。
「織田の為に、人助けが出来る仕事、見つけようね」
「……見つかるさ」
拠点を抜け出し、街からも遠退いていく。
然し彼らはまた戻ってくる。
旧友との約束と、互いを想う気持ちで。
蜜柑の香る列車はゆったりと、
彼らを新地へ運んで行くのであった。
80人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
午(プロフ) - 体の90%がラムネさん» 体の90%がラムネ様、ご感想ありがとうございます!また三期でお待ちしております、宜しくお願い致します!更新頑張ってください! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 闇川幽鬼さん» 闇川幽鬼様、単品で織田作登場です!ありがとうございます! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
体の90%がラムネ - 初コメです!めっちゃ良きでした!!突然ですが、リクエストしたいですが…。ダメでしたね。すいません!また募集している時にいきます!更新待ってます!(自分も更新しろよと思う今日この頃) (2019年12月21日 13時) (レス) id: 8dd45af6f4 (このIDを非表示/違反報告)
闇川幽鬼 - 作之助様登場!!(*゚∀゚*)嬉しいです!(*^_^*) (2019年12月21日 0時) (レス) id: 56867ea8da (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 月瀬さん» 月瀬様、リクエストありがとうございます!只今からのリクエストは無効とします。ゆっくりで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します! (2019年12月15日 11時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:午 | 作成日時:2019年8月25日 17時