国木田独歩 シフォンケーキ ページ20
「眼鏡……」
風呂上がり。そこにある筈の眼鏡がない。
国木田は目を細め、簿焼けた視界の中で手を這わせるが、見つからず。
「困った……」
とりあえず眼鏡以外の支度を整え、洗面所を出る。住み慣れた家、視力は無くても支障ないが、落ち着く筈はなく。
「Aさん、何処ですか」
探す。兎に角、視界の中で揺らめく物があれば、それが。
と、後ろに気配を感じた。
視力は無くとも、武道家としては余り窮する事では無い。
吃驚させぬよう、ゆったりと振り向き、手を伸ばすと。
指先は柔らかいモノに、触れた。
「あっ」
「……………」
え。何だこれは。
シルクの様な肌触り、
弾力のある柔らかな、
目を近付ければ。
甘い香りが、鼻腔を擽って。
「……ケェキ?」
「大家さんから頂いたー」
目線を動かし、少し簿焼けるAの笑顔。
しっかり見たくて、更に顔を近付け、
そのまま響くリップ音。
「………珍しい」
「眼鏡が、ないので」
意味不明の理由に、そっぽを向く国木田とシフォンケーキを交互に見合わせたAは、ふはっと破顔する。
「お茶にしよー」
「は、はい」
何時もなら、こんな時間にカロリー摂取など!と抵抗する彼だが、今日はえらく素直だ。
眼鏡が、ないからか?
紅茶の香りの中、ワンホールに包丁を入れた。
そのふわふわ感を損なわない様、優しく、丁寧に。
そのスポンジの断面は、小さな気泡の跡が綺麗で。
大きい一切れを皿にあける。
「生クリームも頂いてるから、好きなだけかけてね」
早速生クリームを、とろりとシフォンに。あぁ、ミントのせたらお店っぽい!
フォークで簡単に切れ、重みは全くなく、そして口に入れればしっとり溶けていって。
「美味いですね」
「ね!」
口の中で直ぐ無くなってしまうから、つい頬張ってしまう。溢れる笑み。
その、Aのぎゅぅぎゅぅほっぺを、国木田は手で優しく押す。
「んんん」
「ハムスターですか、貴方は……」
ごくん、と飲み込むが、未だ国木田の手は離れない。
「何時もよりいじめてくるね」
「そんな心算は……」
眼鏡を掛け直そうとするが、自分の頬に触れただけ。そのまま頭を抱えて。
眼鏡がないから、
いつもと違って。
「Aさん」
不安だから。
然しそれは、甘味で解れていくから。
何度でも
貴方を。
その
愛しさを、
味わって。
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午(プロフ) - 体の90%がラムネさん» 体の90%がラムネ様、ご感想ありがとうございます!また三期でお待ちしております、宜しくお願い致します!更新頑張ってください! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 闇川幽鬼さん» 闇川幽鬼様、単品で織田作登場です!ありがとうございます! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
体の90%がラムネ - 初コメです!めっちゃ良きでした!!突然ですが、リクエストしたいですが…。ダメでしたね。すいません!また募集している時にいきます!更新待ってます!(自分も更新しろよと思う今日この頃) (2019年12月21日 13時) (レス) id: 8dd45af6f4 (このIDを非表示/違反報告)
闇川幽鬼 - 作之助様登場!!(*゚∀゚*)嬉しいです!(*^_^*) (2019年12月21日 0時) (レス) id: 56867ea8da (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 月瀬さん» 月瀬様、リクエストありがとうございます!只今からのリクエストは無効とします。ゆっくりで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します! (2019年12月15日 11時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:午 | 作成日時:2019年8月25日 17時