01 路地裏、歌 ページ2
樋口一葉は悲嘆に暮れていた。
上司である芥川龍之介の奪還には成功したものの、人虎との壮絶な闘いの後、他組織に拉致・拷問されたその数多の傷により、労いの一言をくれたあの日から、今も目を醒まさない。
「私がもっとしっかりしていれば……」
出てくるのは溜息ばかり。歩を進める足が重い。夕暮れの中、彼女は今、自宅から荷物を運んでいる最中であった。
有事の際、すぐに動けるように。
何より芥川龍之介の看病の為に。
力があれば。
芥川先輩のサポートが出来て、
今のポートマフィアが有利になる、
「そんな、異能力が」
いつも最終的に至るコンプレックスを考え始めたその時、聴こえた。
「歌……?」
歌声だ。
かすかだけど、綺麗な。
声のする方向に目をやると、路地裏に、倒れている者一人、傍に一人。
倒れているのは男で、血塗れだ。どこかの組の者だろう。襲われたのか、左足は折れ、腹は大きく裂けていた。
しゃがみ込んでいるのは女。歌っているのは女の方だ。
『家に帰ろう、皆が待っているから』
そんな感じの歌詞の歌。
良い歌だと思うが、軍警も呼ばず、何をしているんだこの女は、と樋口は思った。
まあ、この辺りはポートマフィアのシマだから、出来れば軍警は呼んでほしくないし、恐らく一般人だろうし、早々にこの女にはお引き取り願おう。
そう思って、近付いた時だった。
「?!」
樋口は、自身の目を疑った。
男の傷が、
治っていく。
流れた血も、
裂けた皮膚も、
砕かれた骨も、
潰れた肉も。
まるで逆再生を見ているかのように、見る見る内に、治っていく。
女は歌う。
それと相するように、治癒される。
「…………」
その光景を、樋口は黙って見ているだけだった。
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午(プロフ) - リアさん» リア様、素敵なご感想とご指摘をありがとうございました!全然気付かなかったのでありがたいです。近いうちに修正します!またいつでも遊びに来てくださいませ! (2021年2月2日 23時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)
リア - 少し高圧的でしたかね?不快でしたら申し訳ない…更新頑張ってください!(唐突〜 無理矢理とか言うんじゃねぇ!) (2021年1月31日 23時) (レス) id: bba845c06e (このIDを非表示/違反報告)
リア - 凄く面白いですね!すぐ読み進めてしまいました!少し気になったのですが、34の所で夢主が芥川さんのことを龍之介さんではなく、芥川さんと言っていたのですが、これは意図的なものなのでしょうか?もし意図的にそうしているなら、すみませんが訂正されては如何ですか? (2021年1月31日 23時) (レス) id: bba845c06e (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 徒花さん» 徒花様、ご感想ありがとうございます!頑張ります! (2019年6月30日 0時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
徒花 - この作品初めて見ましたが面白かったです!頑張ってください (2019年6月29日 19時) (レス) id: 5d280f12f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:午 | 作成日時:2019年5月14日 21時