23:あのボール* ページ23
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__宇野は、変なやつだ。
クラスでの自己紹介の時、「受験当日に受験票失くして落ちかけました」なんて言って、クラス全員の心を掴んでいった。
明るくて優しくていつも笑顔で、勉強もそこそこできる。
でもちょっとぽんこつで、運動音痴で、愛されるいじられキャラで。
誰からも好かれるような、素で太陽みたいなやつ。
だけど時々、明確な境界を引いてきて、これ以上は踏み込ませないぞと無言の圧を感じる時がある。
沢山ドジは見せてくれるのに、その心の内だけはなかなか見せてくれない。
「A、凄いこけ方!」
「いったあ…」
自発的に損な役回りをして関係を保っている。
「私ばかだから」なんて言ってるけど、相当賢くないとこんな立ち回りはできない。
でも、心の奥底では何を考えてるんだ。
宇野の色んな表情を見てみたい。
「潔ー!! お前どこ見てんだ! ボールスルーすんな!」
「へっ、悪い!」
気付けば俺の足元を、勢いよく味方が蹴ったボールが抜けていく。
スピードを殺す事なく転がるボールは、女子がテニスをしている近くの校舎まで消えていった。
小走りでボールを追いかけて難なく掴まえたが、しゃがんだ拍子にこめかみから垂れた汗が地面に染み落ちた。
「あっちィーなー……」
存在をアピールしたい夏もエゴイストだな、なんて思惑で見上げたつもりだった。
2階の教室で、涼し気にグラウンドを眺める一人を見つける。凛だ。
退屈そうに頬杖をついて窓の外に顔を出していた。
「…そーいうことかよ」
視線の先には、宇野が居た。
彼女がコートで躓くと微かにあいつの顔が和らぐ。
太陽は、氷でさえも溶かしちまう。
凛は望んだボールしか追いかけない。
宇野は凛にとって理想の直球だったんだ。
俺達は、同じボールを追いかけている。
「潔ー戻ってこい!」
仲間の呼びかけに意識が戻る。
慌てて踵を返そうとしたとき、宇野が思いきりこけた。
へらへら柔らかく笑う彼女。でもその直後、見上げた宇野が硬直していた。
凛と目が合っている。愛おしそうに微笑んだ凛に、宇野は耳を赤くして俯いた。
彼女の柔らかな睫毛が震えて、恥ずかしそうに小さな唇をつぐんでいる。
俺が初めて見る、笑顔以外の表情だった。
――そうか。
同じボールでも、凛の方がずっとゴールに近かったんだ。
俺の足は届かなかった。
俺が見たくても見れなかった表情を、あいつは簡単に引き出してみせたから。
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時