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1人になった信号で
光る赤に立ち止まるけど
気付かないのか
見て見ぬフリか
するり真横を抜けるのは
スーツを纏う後ろ姿
半分も渡らないうちに
その背中を擦りかけるタクシーが
クラクションで舌打ちをして
ほんのちょっとだけ
革靴が駆ける
.
あぁ、やっぱダメだ
.
別にこんくらいのことなら
珍しいわけでもないのに
それでも
拡がるモヤつきが
どうにもならなくて
俯いて
あのときも、こんな感じやったっけ
信号さえも待てないくらいに
今日を急かしてく明日なら
今日を食い潰してく明日なら
ないほうがマシだって、思った
だから
ヤケになった勢いに任せて
全部を捨ててはみたけど
今は、そうはいかないわけで
回らない頭ん中は
もう、
Aちゃんでいっぱい
笑っちゃいそうなくらいの弱さに
女々しいな、って思うけれど
自分じゃどうにもできなくて
耐えられなくて
恋しくて
その声だけでも聴きたくて
聴きたくて
堪らないから
取り出して触れる画面に
浮かべた名前を呼び出して
髪を避けて耳に当てれば
「もしもし、」
「あ、もしもし。今へーき?」
うん。大丈夫だよ、なんて
Aちゃんのその声だけで
薄くなって吐き出された息が
勝手に鼓動を締め上げる
「あのさ、」
「うん」
「や、……いま何してた?」
「今はねー、テレビ観てた」
でもほぼボーッとしてた、って
クスリ耳元でくすぐるから
大した返事もできなくて
「紫耀くんは?」
呼ぶ声にひとつ深呼吸
「俺はね、バイト帰り」
「バイトかぁ。お疲れ様」
思った勢いに任せて
好き勝手に動いてくのは
辞めよう、って思ってたのに
「ね、Aちゃん、」
その眼を映してなくたって
「そっち、行ってもいい?」
まともに止めらんないまんま
声だけが先を急ぐから
「え?えっと、」
「あ、……や、ごめん」
ほら、やっぱり困らせた
「ううん、あの、」
「ごめんね?変なこと言って」
「え、まって、」
張られる息に
つい上げた眼は
「平気、っていうか。……来て欲しいなって」
青になる信号を
映すから
「いいの?」
「えっと、うん」
「ほんとに?」
耳元で揺られた気配に
「会いたいなって、思ってたから」
早まりかけた足を
踏み出した
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ふとん(プロフ) - みあさん» みあさん、はじめまして。嬉しいお言葉をありがとうございます…!マイペースな更新でしたが、楽しんで頂けたこと、また読み返したいと思って頂けたこと、本当に嬉しいです。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました! (2018年11月14日 16時) (レス) id: f2078b86a0 (このIDを非表示/違反報告)
みあ(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます...!ふとんさんの、暖かくて繊細な文章の綴りが本当に大好きで 毎回更新がとっても楽しみでした。大好きな作品なのでまた初めから読み返そうと思っております、これからも更新、新作共に楽しみにしております〜! (2018年11月9日 1時) (レス) id: 82b4897c45 (このIDを非表示/違反報告)
ふとん(プロフ) - ぴちさん» ぴちさん、ありがとうございます!!楽しく描いているので、そこに引き込むことができているならば私としてもとっても嬉しいです。これからも頑張りますので、お付き合いいただければ幸いです。 (2018年5月31日 21時) (レス) id: f2078b86a0 (このIDを非表示/違反報告)
ぴち(プロフ) - 控えめに行って天才すぎます!!読んでいてどんどん引き込まれました。これからも応援してます! (2018年5月27日 4時) (レス) id: 677cdd452a (このIDを非表示/違反報告)
ふとん(プロフ) - ぷ にさん» ぷ にさん、はじめまして!一気読み嬉しいです、ありがとうございます!たくさん思いを込めているので、有り難いお言葉を戴けて嬉しいです。また最後まで頑張りますので、お付き合い頂ければ幸いです。 (2018年2月15日 21時) (レス) id: f2078b86a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふとん | 作成日時:2018年2月13日 18時