第8話 ページ9
話し終えると、マオはふぅ、と大きなため息をつくと下を向いた。
私は由美と顔を見合わせる。
…正直に言えば、話が全く信じられない。
秘密のすごく多い話だろうというのは読み取れた。秘密を要約したために吹っ飛んだ話になったのだろう。
由美は頭の上に「?」が見えるほど不思議そうな顔をしていた。話を脳内で整理しているのか、ほとんど解っていないのか。恐らく後者だろう。
マオが顔を上げ、こちらを向く。
「質問ある?…よね、何でも聞いてよ」
にっこり、という擬音が似合う笑顔が向けられたが、背景には「なるべく手短に!!」という文字が見えるような気がする。
しかし、質問せずにはいられない。
由美が「!」と何か理解したような顔になった。
「つまりダンジョンに行けば、私たちの世界に帰れるの?ここ…えと、こんふぃーね?って世界から…!」
「そういうこと。…やっぱり帰りたい?」
「そりゃ、帰りたいよ…知らない場所にいるのは、怖いよ…」
この時、マオが一瞬悲しい表情になった気がした。瞬きをすると、先程の笑顔に戻っていた。
私はある程度マオという人間について解ってきていた。
1つ気になる事があり声をかける。
「マオ…君、って今何歳?」
「マオでいいよ。…ん、12…だったかな」
「…っていうことは…」
そこまで言いかけると、マオは私の質問を読み取ったらしく、あぁ、と声を出した。
「そうだよ。僕は物心ついた頃からここに居る。人と話すのも初めてに等しい…話しすぎてちょっと疲れたよ」
そういうことか。
今まで感じていたマオの違和感。あまりにも素直で、嘘はつけないが秘密はかなり警戒しながら守る。
人と話すことが初めてなら納得できる。
「なんか亜美…に見透かされてるような…感じがする」
「お姉ちゃんは全て解っていると言って間違いはないと思うよ?」
冷や汗を垂らすマオの横で苦笑した妹が私を超人扱いしているが、否定はしない。
自分で考えられる限界までマオの全てを想像して私はこう言う。
「…私、ダンジョンに行く」
腰に結んでいた制服のカーディガンを羽織り、マオの方へ向き直る。
続いて由美も「…じゃあ私も」とおずおずと右手を上げた。
マオは少しだけ微笑み言う。
「さて、じゃあ…ダンジョンに行こうか」
もう帰れない危険もあるというのに、私の心はずいぶんと踊っていた。
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作者名:埣空 碧(さいくう あお) | 作成日時:2013年4月20日 19時