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店の外に出れば、先程まで賑わいを見せていた通りはすっかり静まり返っている。
ひんやりと冷たい夜風に撫ぜられ、ぶるりとAは身震いした。
そんな様子を見ていた月彦は、己のコートをそっと彼女の肩に掛ける。
「....!月彦さん?」
「夜風は身に染みるだろう?冷えたら大変だ」
「そんな..月彦さんだって寒いでしょう?」
慌ててコートを返そうとした刹那、ぐっと腰を抱かれ近付く距離。
「私はこうして居れば平気です」
髪に彼の吐息が触れる。
突然の事に、Aの頬はみるみるうちに熱を帯びていった。
(こういう事を素で出来てしまう方なんだろうなあ)
「ありがとうございます」
この五月蝿い心臓の音が、どうか彼に聴こえていませんように。
心底そう思いながら、私はぎこち無い足取りで彼の隣を歩いた。
ーーーーーー
静まり返った夜の街には私と彼の足音だけが響く。
まるで、世界にたった二人だけになったかの様な錯覚に陥った私はふ、と空を見上げると、そこにはやはり見事な満月が在った。
ーーーーーーーーーー
ガチャリ と鍵の開く音がした。
重厚な造りの扉を開けた月彦さんは、
「すまないがほんの少し待っていてくれないか、中を整理してくる」
そう申し訳なさそうに言った。
「はい、分かりました」
口角を上げて言えば、同じ様に微笑んだ彼は優しく私の頭を撫ぜ、扉の中へと姿を消した。
ふう、と小さく息を吐き出したAは家の前の塀に体を預ける。
人の家に訪ねて共に夜を明かすだなんて、彼女にとっては初めての経験だ。
それどころか、異性とあれだけ近い距離で話したのも、手を握られた事も、抱き寄せられた事も、華族令嬢として育てられた彼女には全てが初めての事だった。
「こんなに幸せで、良いのかしら」
顔を綻ばせ、微笑む。
月彦さんは知的で優しい人だ、あんな素敵な人の傍に居られるなんて、こんなに幸せなことは無い。
きっと、これから先も変わらず幸せな気持ちのまま過ごす事が出来るだろう。
「ようやく1人になったな」
ーーーーーそう、思って居たのに。
「っ.....?!!」
頬に感じるひんやりと冷たい土の感触。
何が起こったのか理解出来なかった。
どうして私、地面に伏せて居るの?
背に感じる重み、自由のきかない手足。
「ようやく見つけた、稀血の女。これでより強くなれる、あの御方に認めていただける」
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舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ (2021年2月9日 0時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2020年11月8日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
ぼたんあめ(プロフ) - この小説とっても好きです!更新応援してます♪ (2020年10月27日 7時) (レス) id: 07fb25626d (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - 初めまして突然すみませんこちらのお話読ませていただいたのですが見ていてとても続きが気になりました!更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年2月1日 20時) (レス) id: 41deac151f (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 無限城が無惨城になってますよ。気になってしまってすみません。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:旧華 | 作成日時:2019年11月2日 0時