不滅の愛を 2【煉獄杏寿郎】

58.晴天からの雫 ページ8

飛行機雲が秋空に線を引く。

　今日はついに体育祭。

　校庭のテントの脇から空を見上げている。

　天気は良さそうでほっとした。


「先生、おはようございます。」


　声をかけてきたのは坂田くんだった。


「おはよう！坂田くん保健係だよね？

　怪我人きたら記録お願いね！」


「はい。


　あ、先生？」


　私は救急箱の再確認をしていた手を止めた。


「なあに？」


「俺、今日…体育祭、ちゃんと参加してみる。

　やってみたいんだ、みんなと。」


　秋風が私の髪を揺らす。


「うん！私はここから応援しているよ。」


　坂田くんは嬉しそうに笑った。


「先生がいてくれると安心します。

　だから、少し頑張ってみようと思う。」


「そう言ってもらえると嬉しいなあ。

　頼りないけどね！」


　私は止めていた手を再び動かして

　救急箱の整理をする。


「先生、いつもありがとう。」


　坂田くんはそういうと、


　一度自分の学級の席へと走っていった。



　机には晴れた空からは落ちてこないはずの


　雫が数滴落ちる。



「…っ」



　たった一言。



　"いつもありがとう"のたった一言で


　生徒のために頑張って良かったと


　心から思うことができる。




　子どもの心は誰しもはじめは脆くて弱い。


　何度も打ち砕かれて強くなっていく。


　その過程に私には何ができる？


　傷つかないようにただ守るだけでは


　子どもは成長できないから、


　打ち砕かれてしまった時の、


　立ち上がるための栄養をたくさんあげよう。





　大丈夫、その痛みにそっと寄り添うから。


　


　

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