「誕生日」 ページ8
＊
「じゃあ、はい。」
大倉くんにグラスを渡すと、開けたばかりのワインのボトルを傾けてワインを注ぐ。
テーブルの上で注ぐのと違って、コンクリートの上に座ってるからわずかに注ぎづらく、どぼどぼと音を立ててしまった。
「注いだけるって。」
次に左手に持った自分のグラスにワインを注ごうとしたら、大倉くんの手が私の手からワインボトルを取った。
「月、明るいね。」
大倉くんにワインを注いでもらいながら、透明なグラスとワインに反射する月の光と空の月を交互に眺める。今日は半月だった。
大倉くんは、な。と短く頷いて、ボトルをゆっくり縦に戻した。
大倉くんがボトルを置くのを見届けてから、では、とすこし改まってみる。
「大倉くん、お誕生日おめでとうございます。」
かんぱい。
そう言って大倉くんのグラスに自分のグラスを合わせにいく。かちん、としあわせの音がして大倉くんは、にいっと口角を上げた。
「どおも、ありがとうございます。」
私の真似をした改まった口調でわざとっぽく上品に頭を下げてみせた大倉くんを、ふふって笑って、私たちはワインを飲む。
「うん、うまいなこれ。飲みやすい。」
「よかった。チーズもどうぞ。」
「いただきまあす。」
ちょっと奮発して買ってきた、いつもは買えないようなチーズを数種類。ちゃんと切って、お皿に盛り付けて持ってきた。
「うわ、めっちゃ合うな、これ。うまあ。」
大倉くんはにこにこしながらチーズを食べてワインを飲んでいて、それを眺めるだけで、幸福感で胸がいっぱいになる。
「Aちゃんも食べや。ほら、口開けて。」
ぼうっとしてる私の口元に大倉くんはチーズを突き出した。言われるがまま口を開けてチーズを咥えると、ご満悦そうな顔を見せた。
「あ、うん、おいしいね。これ。」
「な。このワインに合うやろ。それに俺の好きな系統の味やし。」
「まあ、大倉くんのために選んだし。」
すこしおどけて、得意げにそう言うと今度は大倉くんは子を見る親のように目を細める。
「うれしいわ。ありがとう。」
全然、油断できない。大倉くんの表情は子供みたいだと思うと急に大人になったりするし、捻くれているかと思うとこうやって、平気な顔をして素直な言葉をくれるから。
油断すると、私はいとも簡単に骨抜きにされてしまう。
＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1722人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - 璃実さん» 璃実様、お返事が遅くなってしまいごめんなさい…！ただのいちファンとしての勝手な主観ですが、大倉くんの強さややさしさを描けたらなと思いながら書いていたお話なので、そう言っていただけてほんとうに嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました^^ (2023年3月4日 22時) (
レス) id: 4e57835bcc (このIDを非表示/違反報告)
璃実(プロフ) - 沢山の人から生真面と言われてきたので主人公とどこか重ねて読んでいました。私がそうであってほしいと思う大倉くんと、きっとほんの一部ではありますが私が見てきた大倉くんを形にしたのもがまさに夢見子さんの描く大倉くんでした。素敵なお話をありがとうございます。 (2023年2月19日 23時) (レス) @page23 id: 096fac2c00 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。そのようなことを言っていただけて私もしあわせです……少しでも楽しく読んでいただけていたらそれだけでもうとても嬉しいです^^ありがとうございました…！ (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 美波さん» 美波様、あたたかいコメントいただけてとてもうれしいです…（涙）お話を書くのは自己満足のためとは言え、読んでくださる方がいてこそ最後まで書くことができたと思っています。こちらこそ心から感謝です……本当にありがとうございました！ (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - 完結おめでとうございます。ほんっとうに物語に引き込まれっぱなしで、読んでいる時間いつだってとても幸せでした…！素敵な作品を、ありがとうございました。 (2022年3月9日 22時) (レス) @page23 id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年7月16日 0時
