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助手席のドアを開けて車に乗り込んできたAちゃんはほんのり酔っ払っているようで上機嫌だった。


「お迎えありがとう」とにこにこと素直にそう言うと、揺れるような心許ない手つきでシートベルトを引っ張る。


狭い車内に浮かぶほんのりと甘いにおい。



俺はすこし、嫉妬した。

化粧こそ多少崩れてはいるものの、俺が選んだドレスを身に纏った、よそいきのAちゃんはとても綺麗で、酒に酔って上機嫌な姿もかわいらしいと心から思ったから。



さっきまで俺の知らない空間で俺の知らないひとたち――そこには当然、男もいて何人かとは会話も交わしているかもしれない――と時間を共に過ごして、笑ったり感動したりしていたこと。

それからAちゃんに聞くまでは知りようのない、そこで出た料理や酒の味や流れた音楽にすら、嫉妬していた。


なんて稚拙であほくさい嫉妬だろうと恥ずかしくなるけど、どうも心臓がむずがゆい。




Aちゃんは車に乗り込んですこしすると、今日あったことをたのしげに話し始めた。いつもよりずっと、饒舌に。



Aちゃんは多少酒に酔ってもいつもはあまり表にださない、ださないように注意深く気をつけたり、遠慮したりしている感情を潔く解放するタイプではない。理性的なひとやと思う。



「たのしかったみたいやん。」


だからきっと今日はよっぽどたのしかったんだろうな、と微笑ましい気持ちとさっきからのバカバカしい嫉妬が混ざりながら、そう言った。



「うん、すごくいい結婚式だった。」


横目でAちゃんを見ると、やわらかい表情でまっすぐフロントガラスから外を眺めていた。


「うちにハッシュドビーフあるで。」


「ほんとに?食べたいな。綺麗な料理だったけど、緊張しててたからあんまり食べた気しなくて。」


「なんでAちゃんが緊張すんねん。」


「わからないけどなんか。結婚式、ひさしぶりだったからかも。」


真面目な口調で答えるAちゃんに、ふっと笑ってハンドルをきった。角を曲がればマンションの通りに出る。





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蒼 夢見子(プロフ) - 璃実さん» 璃実様、お返事が遅くなってしまいごめんなさい…!ただのいちファンとしての勝手な主観ですが、大倉くんの強さややさしさを描けたらなと思いながら書いていたお話なので、そう言っていただけてほんとうに嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました^^ (2023年3月4日 22時) (レス) id: 4e57835bcc (このIDを非表示/違反報告)
璃実(プロフ) - 沢山の人から生真面と言われてきたので主人公とどこか重ねて読んでいました。私がそうであってほしいと思う大倉くんと、きっとほんの一部ではありますが私が見てきた大倉くんを形にしたのもがまさに夢見子さんの描く大倉くんでした。素敵なお話をありがとうございます。 (2023年2月19日 23時) (レス) @page23 id: 096fac2c00 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。そのようなことを言っていただけて私もしあわせです……少しでも楽しく読んでいただけていたらそれだけでもうとても嬉しいです^^ありがとうございました…! (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 美波さん» 美波様、あたたかいコメントいただけてとてもうれしいです…(涙)お話を書くのは自己満足のためとは言え、読んでくださる方がいてこそ最後まで書くことができたと思っています。こちらこそ心から感謝です……本当にありがとうございました! (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - 完結おめでとうございます。ほんっとうに物語に引き込まれっぱなしで、読んでいる時間いつだってとても幸せでした…!素敵な作品を、ありがとうございました。 (2022年3月9日 22時) (レス) @page23 id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年7月16日 0時

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