忘却の人魚姫。

人魚姫　III ページ4

「お、碧晴ー！！」


提灯の和風な明かりが灯る神社で碧晴のクラスメイトである"蓮"が手を振る。


「そんな大声出すなよ」


碧晴がそう言い放つと蓮が「硬ぇなあ〜」とヘラっとした顔で頭を掻く。

蓮とは幼い頃からの幼馴染だ。
無愛想な碧晴と仲良くしてくれる蓮。
恐らくそれは、人付き合いが悪い……というか苦手な碧晴を心配してのことだと思う。

碧晴に友人が存在するのは蓮のお陰だと言っても過言ではない。

だが、碧晴は蓮のことが少し苦手だった。
自分とは性格も趣味も、何もかもが対照的な蓮のことが。

人付き合いが苦手だからこそ、自分と正反対な蓮には刺激を感じる以前に、苦手意識を持ってしまうのだ。


(ありがたいとは思うんだけどな……)


否、輝いて見えるのだ。

蓮に太陽が振り被っているとしたら、
碧晴には雨が土砂降りで降り続けている。

これが劣等感というものなのだろうか。


「おい碧晴、早く行こうぜ！」


「うん」


クラスメイトに連れられ、神社の階段を上り始める。

海の先に広がる大きな世界の中に、碧晴と同じ思いを持つ者はいるだろうか。

いてほしい。そう願う。

碧晴が空を見上げると、ポツポツと細波のような星が見え始めていた。



夜は嫌いだ。
まるで闇の中に囚われている自分自身を表しているようで。

一筋だけでもいい。
夜明けの光を求める自分がここにいる。

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