【第7章】同じ目をした少女 ページ41
*
生まれてから、一度も恐怖を味わったことがない。
欲しい獲物は必ず手に入れてきた。親を追いはらって、木の上にある巣のなかの卵を
俺の親は、もう随分 前に死んだ。
寂しくはなかった。
俺は独りでも生きていける。俺に怖いものなんてない。
弱肉強食のこの世界で、俺はずっと生き続けるんだ。
＊
それは突然だった。
ある日、宇宙人みたいな格好をした奴らに捕まった。
「ドーミラー！ ジャイロボール！」
氷タイプは、鋼タイプにてんで弱い。
いつの間にか俺はモンスターボールで捕獲されていた。
越えられないタイプ相性の壁に、俺は屈してしまった。
まあ捕まったものはしょうがないか、と思った。
生まれてから今までずっと過ごしてきたエイチ湖を離れるのは、少し名残惜しかったけど。
＊
ギンガ団。
偽善者ばかりの組織だった。
エネルギー研究。
みんなのため。
ギンガ団のため？
そんな生ぬるい思想じゃない。
ここは地獄だ。
ポケモンをまるで兵器のように扱い、ポケモンバトルに負けたらポケモンのせいにされる。
使いものにならなければ簡単に捨てられる。
一度人間に捕まったポケモンは、その時点で野生で生きていく力は失われるのに。
調教という名の虐待。繰り返される生体実験。
同じ部屋にいたポケモンが、次の日にはいなくなっていたこともあった。
俺は、生まれて初めて、迫りくる“死の恐怖”を、肌に感じた。
＊
死にたくないなら、従順になるしかなかった。
大人しくして、強くなって、捨てられないように。
今更、野生には戻れない。
人間のニオイがついたポケモンを、自然の世界は受け入れてくれない。
だから俺は、反抗することをやめた。
逃げ出そうとしたら、すぐに捕まって、罰を受ける。
痛い思いをしたくなかった。死ぬのが怖かった。
＊
ある夜のことだった。
捕獲のポケモンは誰もいない鍵のかけられた檻の中で、俺は疲れた体を休めていた。
明日も、明後日も明明後日も。来週も再来週も、来年も再来年も。
きっと、同じような日々の繰り返しだ。
その中で、少しでも長く生きていたかった。
理由？
死ぬのが怖い。死にたくない。
それ以外になにか必要なのか。
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2023年1月26日 20時
