氷の火山【サターン】【プラチナ】 (ページ31)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:3,422 hit

【第5章】馬鹿な女ページ31

*

つくづく馬鹿な女だと思う。

国際警察のスパイとしてギンガ団に入ってきたくせに、なにが『サターンがいなくなるなら、私もやめる』だ。
頭が沸いているんじゃないのか。敵同士の立場だろうが。

アカギ様に消される前に国際警察に消されるぞ。

……そう思いながら、ここ数年を過ごしてきた。

報われず、救われない女なのだ。
生まれたときから一般人とスタートラインが違う奴だった。

＿＿＿＿『どうして、サターンは私をギンガ団に入れたの』

数年前、何も言わず私を見るお前は、今にも泣きそうな顔をしていた。

寒さに鼻を赤くして、目が潤んでいた。
今ここで手を差し伸べられる人が差し伸べなければ、死んでしまうと思った。

べつに死んだってよかった。
当時、私には関係ないただの子供だったのだから。

なのに、手を差し伸べてしまった。
あまりにも可哀想に見えたから。

幼かっただけのAは、たった数年の間であっという間に女らしく成長してしまい、寒さに震えて目を潤ませるかつての純真無垢な少女の面影はほぼ無くなってしまった。

でも、時折見せる不満げな表情は駄々をこねる子供のようで、何も変わってないと感じることもある。

スパイだとわかったから幹部になったAだが、幹部服は妙に露出が多い気がしてヒヤヒヤしたり。

今となっては、数年前のあの日、Aのことを見殺しにしてしまったほうが、彼女は幸せだったんじゃないかと思う。

こんな殺伐とした生々しい世界にいるよりも、早々に死んで、先立ってしまった両親の元へ行った方が良かったのでは。

そうしていれば、今Aはあんなふうにつらい思いをすることも、死の恐怖に震えることもなかった。
あのとき私が手を差し伸べたから、今Aが苦しんでいるのだ。

＿＿＿＿『だったら何なの。逮捕するならポケモン勝負で勝ってからにしてくれる』

あのときAは、何を守ろうとしたのだろう。
私が来ていたことには気づいていなかった。

なのに何故国際警察の前でギンガ団として振る舞ったのだろう。

Aはギンガ団を守ろうとしていたのではないかと、都合のいいことを考える。

六つも歳下の子供に、いつの間にか私が特別な感情を抱いてしまっていたのと同じように、Aも絆されてしまっていたのではないかと。

都合のいい考えだとしても、納得はいく考えだ。

だってAはずっと、国際警察に捨て駒にされたと思って生きてきたのだから。