エーデルワイス【1st】【グルーシャ】 (ページ41)

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昔から胃袋が小さく、あまり食べない自分は昼食を適当にすませると、エントランスに訪れた。やっぱり、本に囲まれた空間ほどパラダイスな場所はない。

人の出入りが盛んなところではあるが、雰囲気的に静かだし＿＿＿＿。

「私の賞状飾られてる！？」

……そんなことは、なかったようだ。

耳を貫いた明るい声。振り返ると、こないだ見た賞状のケースの前に二人の男女……。……男女？ひとりは確実に女だろう。……もう一人は？ ……どっちだ？

しかし、二人とも制服を着ていないので学生でないことはわかる。そして、確実に女性な人の方は、近未来的とでも言うのだろうか、少し不思議な雰囲気の漂う服を着ていた。

「受け取りもせずにいなくなるからだよ……。六年間ずっと晒されてるよ」

「晒されてるって言い方は恥ずかしいからやめてよ。飾られてるの。私の栄光」

「はいはい……」

＿＿＿＿男だ！

声を聞いてようやくもう一人の性別を確信する。ていうか、顔が綺麗すぎる。前世でどれだけの徳を積んだらあんな顔面が生まれるのだろう。

頭が冷静になった頃、賞状を前にして「私」という一人称を使っていることに気がついた。

……じゃあ、もしかして、あの人が。

「懐かしいな……」

「夏休みの自由研究っていうより、〈宝探し〉の延長みたいなものだったけどね。＿＿＿＿A」

A。そう呼ばれた女性は、隣を見た。その拍子に彼女の顔も見える。
赤い瞳と、端正な顔立ちはしているが、どこか冷たい印象を与えるような淡白な表情。右耳に付けられた金の蝶のイヤーカフが、妖しい雰囲気を増幅させるようだった。

「三日後には宝探しが始まるんだってさ」

「ふーん……」

Aサンは相槌を打ちながら、小さくなにか呟いた。隣の人に聞こえていたのかはわからないが、ぼくには聞こえた。

＿＿＿なら、早く捜さなきゃ。

冷たく、どこか怖さと不安定さも感じる。ゆらゆらと揺れていて安定しない。急かすような焦燥感さえも。何か嫌な感情が入り乱れているようだ。

Aサンが視線をずらすと、バチッと目が合った。
あ、と思っていると、彼女の目が小さく開いた。

「オモダカさん、今職員室にいるんだって。グルーシャ、先に行ってて。私はちょっと用事があるから」

「そう？わかった」

グルーシャ、という人を見送ったAサンは体ごとぼくの方に振り向かせた。そして、機械的なのに好奇心に溢れた、矛盾じみた笑みを浮かべた。