〈一章〉とけない氷 ページ3
*
特性〈ほのおのからだ〉を持つウルガモスで暖をとるAを横目に、本当にこの子は昨日まで行方不明だったAなのか不安になってくる。
……ゾロアークが化けたとかじゃないよな?
「そのウルガモス……」
ぼくが口を開くと、Aがこっちに目を向けた。
目つきもなんとなく、昔とは違う気がする。
「そうだね。グルーシャは、久しぶりだよね」
Aの手がウルガモスの顔を撫でると、ウルガモスがすり寄るように頭を
今気づいたが、Aの手には黒いグローブが付けられている。
「覚えてる? 私の最後の宝探し」
____『もうすぐ始まるでしょ? 宝探し』
弾けるような声。こぼれるほどに大きく開かれた目が
宝探し。アカデミーの伝統行事。
____『私と一緒に回ろう! 会いたいポケモンがいるの!』
「うん……覚えてる」
「そのときの宝探しで進化したウルガモス。……あのとき会った子達、今もちゃんと連れてるし、進化もさせた」
このとき初めて、Aの口角が若干上がった。
その横顔を見て、うまく言葉にできない何かの感情が湧き上がる。
「そんな戸惑わなくたってさ」
Aの言葉に、パッと顔を上げる。
顔立ちも昔とは少し違うが、確かに、Aの面影は、ある、のだ。
「……グルーシャが思うより、そんなに変わってないと思うよ。私って」
それは、ぼくを安心させるために言った___そんなふうには見えなかった。
まるで、Aが自分自身に言い聞かせているかのように。そしてそれは、自分を安心させるための言葉でもない。
お前はそういう人間なのだ、六年の月日があったからといって、何かが変われる人間ではないのだと、やや自嘲気味に理解させているように見えた。
それはぼくの知っているAではない。
彼女は、つらいときや苦しいときこそ自分を肯定したがる人だった。曰く、『そうでもしなきゃ、いよいよメンタルがもたなくなっちゃう』とのこと。
「A」
「なあに」
冷たくはあるが、柔らかい声。
呑気に間延びした口調。
細かい部分ばかりが、妙に六年前のAを想起させる。
「……今まで、どこにいたの」
旅に出ます___そんなことをほざいて行方不明になったのだから、どこかしらに行っていたのだとは思う。どこか、遠い地方とかだろうか。
しかし、彼女の回答は予想の斜め上を行くものだった。
51人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2023年2月25日 23時