検索窓
今日:2 hit、昨日:24 hit、合計:16,704 hit

〈一章〉とけない氷 ページ3

*



特性〈ほのおのからだ〉を持つウルガモスで暖をとるAを横目に、本当にこの子は昨日まで行方不明だったAなのか不安になってくる。

……ゾロアークが化けたとかじゃないよな?



「そのウルガモス……」



ぼくが口を開くと、Aがこっちに目を向けた。
目つきもなんとなく、昔とは違う気がする。



「そうだね。グルーシャは、久しぶりだよね」



Aの手がウルガモスの顔を撫でると、ウルガモスがすり寄るように頭を(かし)げた。
今気づいたが、Aの手には黒いグローブが付けられている。



「覚えてる? 私の最後の宝探し」



____『もうすぐ始まるでしょ? 宝探し』


弾けるような声。こぼれるほどに大きく開かれた目が脳裏(のうり)に思い出された。

宝探し。アカデミーの伝統行事。


____『私と一緒に回ろう! 会いたいポケモンがいるの!』



「うん……覚えてる」

「そのときの宝探しで進化したウルガモス。……あのとき会った子達、今もちゃんと連れてるし、進化もさせた」



このとき初めて、Aの口角が若干上がった。
その横顔を見て、うまく言葉にできない何かの感情が湧き上がる。



「そんな戸惑わなくたってさ」



Aの言葉に、パッと顔を上げる。
顔立ちも昔とは少し違うが、確かに、Aの面影は、ある、のだ。



「……グルーシャが思うより、そんなに変わってないと思うよ。私って」



それは、ぼくを安心させるために言った___そんなふうには見えなかった。

まるで、Aが自分自身に言い聞かせているかのように。そしてそれは、自分を安心させるための言葉でもない。
お前はそういう人間なのだ、六年の月日があったからといって、何かが変われる人間ではないのだと、やや自嘲気味に理解させているように見えた。


それはぼくの知っているAではない。
彼女は、つらいときや苦しいときこそ自分を肯定したがる人だった。曰く、『そうでもしなきゃ、いよいよメンタルがもたなくなっちゃう』とのこと。



「A」

「なあに」



冷たくはあるが、柔らかい声。
呑気に間延びした口調。
細かい部分ばかりが、妙に六年前のAを想起させる。



「……今まで、どこにいたの」



旅に出ます___そんなことをほざいて行方不明になったのだから、どこかしらに行っていたのだとは思う。どこか、遠い地方とかだろうか。

しかし、彼女の回答は予想の斜め上を行くものだった。

・→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (19 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
51人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2023年2月25日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。