実家 ページ8
運転席にAちゃん、助手席俺。後ろに拓ちゃんと土岐さんとナイト。ハンドルを握る彼女の手から緊張感が伝わる
「大丈夫?」
『うん…』
八代「無理はするなよ?いつでも運転変わるから」
『だいじょーぶ』
あれから何回か彼女のリハビリの為の呑み会をしたお陰か、だいぶ言葉がスムーズに出るようになった
彼女が確かめるって言った意味が分かったのはあの日から1週間後だった
「え、」
正直一瞬聞き間違えたかと思った
土岐「Aちゃん本気?」
『ほんき、だよ。たしかめる』
八代「お墓じゃなく?」
『うん。じっか、しょーちゃんの、へや』
今まで翔さんの話をするAちゃんの中で、1番穏やかな表情をしていた
八代「翔亡くなってから隣の自分の部屋にだって1回も近づけなかったろ!?」
『そうだね…あの、へやには、しょーとのおもいでが、いっぱいだから…でも、たしかめたいの』
Aちゃんの目が本気だ。彼女はきっと1人でも確かめに行く
緩いブラウスにジーンズ、丸渕眼鏡。長い髪は三つ編みにした彼女がナビを使う事もなく車をどんどん走らせる。しばらくするとどこか懐かしい感じの温泉街に入った
「ん?硫黄の匂い」
『くさつは、いおーせん』
八代「あー…上野家来たって感じるす」
土岐「ちょっと分かるwwあ、湯畑!」
「あれが有名な湯畑か」
温泉街から少し離れたところにあるオシャレな一軒家の脇に1度停車させた
八代「俺開けてくる」
『ありがと』
彼女から鍵を受け取った拓ちゃんが門の鍵を開け、中に入っていく。それを確認するとAちゃんはバックで門の中へ進める。ガラガラっと音がして拓ちゃんが半地下になった車庫を開けて端へよけるとそのままバックで綺麗に収めた
『ついた…』
ふぅっと小さく息を吐き出した彼女がハンドルから離した手は少し震えていた
「…Aちゃん」
『だいじょーぶ、だいじょーぶ。きんちょー…してるだけ』
車を降りて車庫を出ると拓ちゃんが車庫を閉めて、彼女は門を締めて戻って来た。Aちゃんが玄関の前に立つとゆっくり深呼吸してから車の鍵についたカードキーをセンサーに当てると、ピピっと音がしたあとガチャっと鍵の開く音がした
「すご…」
『ここのかぎ、かえるまえに…もんとしゃこ、じどーにして、ほしかった』
八代「お前車庫閉められないもんな」
『うん。あたしには、たかい』
観音扉の片方をAちゃんが引くと外観同じオシャレな内装が広がっていて、正面には大きな古時計と家族写真が飾られていた
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作者名:福招猫 | 作成日時:2021年9月20日 23時