甘い…生活？ (ページ11)

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11話目ページ11

黒スーツさんがペンライトで私の足元を照らし、「こっちです。」と手招きをする。

…二人が言ってた通り、このお店何だかおかしい。

肩にかけたカバンの紐を強く握り締め、店内の奥にあった部屋に入った。

「そちらの椅子にどうぞ。ちょっと待ってて下さいね。」

「あ…はい。」

粗末な折り畳み椅子に折り畳みテーブル。

ロッカーが何台か並んでいて、更衣室か何かの部屋？

言われるままにそこに腰を下ろし、黒スーツさんが出ていったのを見計らってため息をつく。

辺りを見回すとお姉さんの名前が並んだ何かのグラフ、うがい薬に透明な液体が入ったボトルが目に入る。

「えっ、あれって…。」

男女の営みに用いる衛生用品が床に散らばって落ちていて…私は急に怖くなってきた。

「お待たせしました。お茶で良かったですか？」

「ありがとう…ございます。」

『店に何かを出されたら気を付けろ。』

グラスを受け取りながら、源に言われた言葉を思い出す。

「飲んで下さいね、遠慮せず。」

「あ、いえ…。」

「うちのお店のお茶、美味しいんですよ。」

黒スーツさんはにっこりと微笑み、必死で飲ませようとしてるみたい。

…これ以上断るのも怪しまれる？飲む振り…なら。

震える手でグラスを持ち、ちびっと唇を付けて「美味しいです。」と笑いかけた。

「それでは仕事内容の説明を…」

～♪

「あ、ごめんなさい。携帯の音を消すの忘れてました。」

「いえ、出て下さい。何か急用だったら大変ですから。」

「すみません。はい、もしもし。」

ーA、大丈夫？とりあえず頷いてて。今から乗り込むから「お兄ちゃん！」って怯えてる素振りで電話を切って。その後は「兄が」って狼狽えとけば良い。じゃ、切るよ。

剛が電話を切ると同時に「お兄ちゃん！」と大声を出した。

「ど、どうしたの、大丈夫？」

「あ、兄が…どうしよう…兄が…。」

大袈裟に狼狽え、両手で顔を隠して黙り込む。これならもう話さなくて良いはず。

コンコン！とノックの音がして慌てた素振りの人が飛び込んできた。

「店長、面接の方のお兄さんだという方が…あっ、困ります！」

「どうも～、ここにAって子が来てると思うんですけど？」

「あ、お前…帰るぞ！昨日怒ったのに分かってないのか！」

ドアに居た人を押し退けて二人は入ってきて、私の手を掴むと「お邪魔しました～。」と頭を下げる。

「い…え…。」

黒スーツさんは顔をひきつらせ、呆然と立ち竦んでいた。