14.夜の終わり(神宮寺寂雷) ページ14
夜の終わり
(きみの瞳を見るとおかしくなりそうなんだ。)
もうすぐ朝が来る。夜の色の残滓が窓を通してわたしたちに降り注いだ。ああ、いやだ。朝はわたしたちを引き剥がす。世界が夜に包まれたならきっと、ほんとうの永遠になれるのに。わたしはそう思ったが口には出さなかった。彼女に否定されたくない。幼稚な自己欺瞞。
コーヒーを入れたマグはすっかり体温を失ってさみしげに冷えていく。映画のラブロマンスを笑うAは、その宇宙を思わせる大きな眼を歪ませて言った。「ほんとうの愛はここにあるのに。」わたしは彼女をとても愛しく、しかし同時に可哀想に思った。
きみは所詮わたしに縛られているだけのひとがたなのに。雛鳥のように、わたしからの呪いを喰って生きる惨めな殻。
わたしがいなければ死んでいる可哀想な子。かわいい子。これは愛なんかじゃない。
「先生。愛してます。」
穢れた独占欲。毒のようにAの臓腑を蝕む妄執。ヒトに備え付けられた最低の感情だ。
(きみにそう呼ばれるたびにおかしくなりそうなんだ。)
「映画は面白かった?」
わたしが絞り出すような声で問えば、Aはいよいよ泣き出しそうな顔になって、わたしの肩に縋り付いた。
わたしはやはりわたしから離れられないAが好きなのだ。
エンドロールは永遠に思えるほどにどろどろと流れてゆく。Aは一粒だけ涙を流して、「映画みたいに抱きしめて。」と言った。終わらない。なにもかも。生物が死ぬように、あたりまえのように、わたしはAを黙ったまま抱きしめた。世界から隠すように、ちいさな彼女を消してしまうように。この瞬間、わたしとAはもういないのだ。そんなものは存在しない。ふたつの肉の塊がぐちゃぐちゃにとけてひとつになって、そうしてわたしたちはようやく天国へ行こうね。
いらない。なにもいらない。終わらないのだ。映画は消そう。「きみ以外いらない」気色の悪いそんな科白を吐いても、わたしたちはハッピーエンドにはならないんだね。三千世界の烏を殺し、きみと心中がしてみたい。
夜が明ける。
窓のそとのコンクリートはぼんやりと湿った空気に濡れ、ゆっくりと息づいていく。A、A、ああ、「朝が来なければ。」
(わたしたちはもうおかしくなってしまっていた。)
この部屋で融けあって消えてしまえたなら。わたしはそう思ったが口には出さなかった。
ー
リクエストありがとうございました!!
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タメィゴゥ - めちゃ面白かったです!ド好みです!ありがとうございました! (2019年12月23日 18時) (レス) id: 98d1675711 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - タメィゴゥさん» リクエストありがとうございます!そういうのめちゃ好きです!遅くなるかもしれませんがサマトキ了解しました! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
タメィゴゥ - すみませんリクエスト良いでしょうか? もしよろしければ左馬刻様が夢主にでろでろに依存してしまい離れられないお話を書いていただけませんでしょうか? リクエストがもはやキャラ崩壊ですがよろしければお願いします。<(_ _)> (2019年12月2日 19時) (レス) id: 78b2b55a96 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - 林檎麻さん» こちらこそありがとうございます!!!はらいくうこうくん、了解しました!ちょいムズですね…がんばります (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - いつも素晴らしいお話をありがとうございます…とっても好きです…愛してます…。リクエストでよかったら波羅夷空却くんをお願いしてもいいですかね…??応援してます…!! (2019年11月3日 2時) (レス) id: 5fe5e3438d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:43沿い | 作成日時:2018年8月31日 0時