第102話 ページ7
凜は俯き気味になって、顔を沈ませて言った。
「...私だって、春美の彼氏の名前聞いてびっくりした。平松拓磨って、名字までおばあちゃんと一緒で。まさかあっちから引っ越してきた子が拓磨の彼女で、そんな子と、仲良くなるなんて。本当は、また逃げようって思ったの。でも...それなのに、お母さんとお父さんと、春美と、学校のみんなと、こっちで関わったみんなと離れるのが嫌だって思ってしまって...。平和ボケしてた。居場所が拓磨に知れるかもしれないのに、動かなかったなんて、本当に甘えてた。本当に、それほどに、今の生活が恵まれてるのよ...」
凜はますます下を向き、拓磨からはその顔がみえなくなった。
しかしすぐに勢いよく顔を上げ、凜は涙目で拓磨の目を真っ直ぐに見た。
「だからお願い...拓磨っ。私の周りのみんなに、絶対に危害を加えないで。みんなは何も悪くない。動かなかった私が全部悪いの。みんなは、私が逃げてきた先にいただけの、巻き込まれただけの人達なの。それは春美もそう。本当なら、私とも普通に仲良くできるし、拓磨とも普通に付き合っていけるはずなのよ。私たちの事情に巻き込んじゃいけない。絶対に、誰にも私たちが双子だって、バレたらだめなの。」
拓磨は微笑して、しかし冷ややかな目で、凜を見つめた。
そして少しずつ凜に歩み寄ると、そのまま口を開いた。
「...僕だって、春美との関係は壊したくないし、関係ない人達は巻き込みたくないよ。僕が重要視しているのは、父さんの事故と母さんの火事の真相を、誰が知っているのか、ってことだけだよ。凜は養子縁組を組めたでしょう?ということは、よっぽどな理由があるってことを誰かに伝えたということになる。違う?」
だんだんと近づいてくる拓磨を恐れて、凜は少しずつ後ろに下がった。
「...今のお父さんとお母さんには、無理を言って養子に入れてもらってるの。2人は何も情報を知らない。そういう約束をしてる。」
凜は拓磨をなだめるようにそう言った。
拓磨は表情を変えないまま言葉を続けた。
「でも、保証人か何かが必要でしょ?養子縁組って。未成年1人でできることじゃない。誰か、何か知らないと、容易に組めるものじゃない。」
凜は足を少しずつ下げて、拓磨との距離を図った。
まだ、拓磨への恐怖は消えていない。
凜にとって、自身の中にある恐れは、決して直ぐに無くなるものではなかった。
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fruit(プロフ) - いちうさぎさん» いちうさぎ様!!また私に作品を作る機会を作って下さって本当にありがとうございました!私はまだ今作と前作しかありませんが...楽しんでいただけると嬉しいです!!本当にありがとうございます!!(告白は快くお受け致します) (2020年7月23日 0時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
いちうさぎ - fruitさん» はあ・・・好きです(唐突な告白)まじで面白かったです!他の作品も今から読ませていただきます!執筆、本当にお疲れ様でした!(((o(*゚▽゚*)o))) (2020年7月22日 19時) (レス) id: d12e33a79f (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 水の犬。さん» もちろんしっっっっっっっっっかり覚えさせて頂いております水の犬。様!!毎回毎回丁寧なコメント本当にありがとうございます...凄く嬉しいです!「こちらの作品が大好き」もうこれ以上ない嬉しいお言葉です...幸せをかみ締めております...ありがとうございます... (2020年7月20日 22時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、お久しぶりです。覚えていなかったらすみません。番外編も読んでいてすごくゾクゾクしました(いい意味です)!改めてこちらの作品が大好きだなと感じました。 (2020年7月20日 18時) (レス) id: 88a373f457 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - いちうさぎさん» お待たせいたしました!!!遅くなってしまって申し訳ありません...気に入っていただけるかはわかりませんが、読んでくださると嬉しいです!リクエストありがとうございました! (2020年7月20日 17時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:fruit | 作成日時:2019年8月13日 23時