第109話 ページ14
私が黙って拓磨を睨んでいると、拓磨は広げていた両腕を一旦下ろし、眉尻を下げて言った。
「春美、変なことを考えたらダメだよ。凜が取った最終的な行動は、周囲の人を謎と悲しみに包んだでしょ?今回は凜には、消えた理由として解く謎があったけど、春美がもしいなくなったらどう?どうしていなくなったのか、僕以外に絶対にわからないよ。春美のご両親はどう思うかな。春美のクラスメイトはどうなるかな。何もわからないまま大切な人を亡くす苦しさは春美が一番よくわかってるはずだよね。春美、ちゃんと考えたら、迷うことなんて無いんだよ。」
こんな状況で、拓磨の言葉なんか耳にもしたくないけど
やはり私は、心のどこかで言葉を拾ってしまっていた。
大切な人を、突然失う悲しみ
遺された人を襲う孤独感、不安感
どうにもやりきれずに、ただ悔しいだけですぎていく日々。
私を大切に思ってくれている人がどれだけいるかはわからないけど
私が凜を亡くした時に感じた、あの苦しみを
誰かに味あわせてもいいものだろうか。
自分が酷く苦しんだ行いを
自ら、再び起こしていいものだろうか...
私は、静かに目を瞑った。
悔しいけど、拓磨の言っていることは正しい。
それに、そもそも自ら命を捨てるなんてこと、あっちゃいけない。
たとえどんな状況であれ、奇跡が重なって生まれたこの命を、捨てるなんてことは、しちゃいけない...
私は震えながら目を開けた。
「春美...?」
私が顔をあげたことに気づくと、拓磨は、私の名を呼んだ。
そして再び両腕を広げ、にっこりと笑みを浮かべた。
...逃げられない。
抵抗しようとか、状況を変えてやろうとか、思う方が間違ってる。
私はもう、拓磨から逃れられることなんてない。
きっとこれが、運命ってものなんだ...。
私は拓磨と目を合わせると、片腕で背後の柵を押し、少しだけ拓磨に近づいた。
そして拓磨の顔をじっと見ながら、少しずつ、言葉を紡いでいった。
「...逃げないよ。そもそもどんな事があっても、命は捨てちゃいけないし、私を苦しめた思いを、他の人にもさせちゃいけない。拓磨の言うことが合ってる。私は、侵害してはいけない領域に、踏み込んでしまったんだね。」
私はそこで言葉を止め、再び拓磨を見つめた。
彼は私がどういう目線を送ろうと構わず、ずっと笑顔を崩さなかった。
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fruit(プロフ) - いちうさぎさん» いちうさぎ様!!また私に作品を作る機会を作って下さって本当にありがとうございました!私はまだ今作と前作しかありませんが...楽しんでいただけると嬉しいです!!本当にありがとうございます!!(告白は快くお受け致します) (2020年7月23日 0時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
いちうさぎ - fruitさん» はあ・・・好きです(唐突な告白)まじで面白かったです!他の作品も今から読ませていただきます!執筆、本当にお疲れ様でした!(((o(*゚▽゚*)o))) (2020年7月22日 19時) (レス) id: d12e33a79f (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - 水の犬。さん» もちろんしっっっっっっっっっかり覚えさせて頂いております水の犬。様!!毎回毎回丁寧なコメント本当にありがとうございます...凄く嬉しいです!「こちらの作品が大好き」もうこれ以上ない嬉しいお言葉です...幸せをかみ締めております...ありがとうございます... (2020年7月20日 22時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
水の犬。(プロフ) - こんばんは、お久しぶりです。覚えていなかったらすみません。番外編も読んでいてすごくゾクゾクしました(いい意味です)!改めてこちらの作品が大好きだなと感じました。 (2020年7月20日 18時) (レス) id: 88a373f457 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - いちうさぎさん» お待たせいたしました!!!遅くなってしまって申し訳ありません...気に入っていただけるかはわかりませんが、読んでくださると嬉しいです!リクエストありがとうございました! (2020年7月20日 17時) (レス) id: b2a1d0f311 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:fruit | 作成日時:2019年8月13日 23時