砂漠の星、大マハマトラ ページ14
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「んぁ、セノ……？」
ティアがシティに戻ってきていると聞いて仕事を終わらせ、どうせまた酒場にいるのだろうと思って来てみれば、案の定これだ。俺は大きな溜め息をこぼした。
彼の背中に回していた手を腋の下に差し込み、肩を貸してやる。転んで頭を打ちでもしたら、自慢の頭脳がどうなるかわからない。
「てがみ、返さなくて、ごめんな」
「気にしなくていい。誰かに何か言われたのか？」
「ん、ティナリに叱られた……」
彼なりにティアのことを心配していたのか。
確かに、ガンダルヴァー村へ旅人の様子を見に行ったとき、やたらとティアのことを聞いてきていたな。
「あと、セノ、大マハマトラに復職したんだろ？」
「ああ。旅人から聞いたか」
「うん……おめでとう、おれ、きみが辞めたって聞いたとき、本当に……心配したんだ」
「そうか。……心配をかけて、悪かった」
「いいんだ、それと……ナヒーダをたすけてくれて、ほんとにありがとう」
「……ああ。お前の使命を奪う形になって、すまない」
「使命とか、そんなんじゃないよ、諦めてたし……なんであれ彼女を救ってくれたのには、変わりない」
俺は久しぶりに聞く彼の声に安堵しながら、ヴンダーまでの道を歩いた。
酔っ払った彼の言動は時おり怪しくなったものの、その多くはきちんとした受け答えだった。
小さな城が見えてきて、彼に着いたぞと教えてやる。
ティアは据わった目でヴンダーを見、んー、と一言答えて、うなだれた。もう眠いのかもしれない。
鍵を受け取り、代わりに開けてやる。
玄関を抜け、小綺麗な廊下を行く。彼の家の間取り図はもう頭に入っていた。何度か泊まっているからな。
「ティア？ ベッドだ」
「うぅん……」
眠たげにしている彼を寝台のそばまで連れて行き、ゆっくり座らせる。もう目蓋を閉じて、船を漕いでいた。
「ひとりで眠れるか？」
「いくつだと思ってるんだ、……ねむれるよ」
「うん、それならいい」
彼はベッドに上がり、全身を横たえた。
数秒と経たずに穏やかな寝息が聞こえてくる。
少し前、ルームシェアしていたときは、眠るのにだって苦労していたのに。今はもう、これほど早く寝られるのか。
今の生活にどれだけストレスがないのかを垣間見たような気がして、俺は勝手に嬉しくなった。
「……おやすみ、ティア」
よく眠れるようにまじないでもしてやるべきかと考えたが、俺はティアの親でも恋人でもない。
そっと頭を撫でて、ヴンダーを後にした。
伝説任務 −尾咬蛇の章 第1幕−→←砂漠の星、妙論派の星、書記官
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
