１３０、不思議不可思議 ページ10
「ねえお嬢さん、あなたは私達がしてることを知ってるんでしょう？」
上から垂れ下がる蔦を避け、森の中を進んでいる途中でパクノダが微笑みを浮かべながら言った。
してること。盗みと殺しのことだろう。盗賊であるからには、前者の方が多いはずだけど。
頷いて肯定すれば、私のことを横目で見下ろして彼女はまた可笑しそうに笑う。
前で歩いていた団員たちが軽く振り返り、パクノダを見ては驚いている。ちなみにその中にフェイタンはいない。先に行ったらしい。
「ごめんなさいね、とても不思議だったから」
「？ 何が不思議なの？」
「世間を何も知らない、お金持ちの娘みたいな子が盗みも殺人も許容しているのよ。不思議じゃない？ マフィアの娘とかなら納得だけどね」
確かに普通の女性は盗みも殺しも忌避するだろうし、私もどちらもやってはいけないとネテロに教えられた。
残念ながら殺しの方は獣性のこともあって時と場合によるので教えられたことを守れてはいないけれど、盗みはしたことがない。
「そういう生き方もあるのだと知っているだけよ」
弱いからこそ他の生物のおこぼれに与って生きる獣。弱者の獲った獲物を横取りし続けて生きる強者。有り余る力を振るって弱きを弄ぶ獣。ただただ種族のために他を殺す獣。
私が元の大陸で見てきたいろんな獣がいるように、まだ見たことのない色んな人間がいる。
幻影旅団の面々はまだ見たことない人間たちだ。どんな人間たちなのかはまだわからないけれど、どうも確信に近い予感がある。
私はこの人たちを気に入ってしまうだろうという予感が。
辺りを木々が囲む、小さな開けた場所に出た。フェイタンがその中央で傘を地に突き立て佇んでいる。
到着に気付くと彼は真っ直ぐに此方を睨んでくる。
「遅いね」
「時間は指定されてないもの」
そう返せば、離れたところに立っていたノブナガとウボォーギンがそりゃ確かにそうだ！と言って笑いだした。
笑われて更に不機嫌になったらしく、フェイタンが眉間にシワを寄せる。
「ささとこち来るね」
「それは良いのだけど、どう戦うの？ 念はあり？」
森の中に再び入っていく団員たちを横目で見る。森の少し遠くの方からこっちを見るようだ。
「ありに決まてるよ。戦い舐めてるか」
「手合わせならルールとかあるでしょう」
私の言葉に、フェイタンがハ、と嘲笑した。残酷な光を瞳に浮かべて──獰猛に、笑んだ。
「手合わせ？ 違うよ、真剣勝負ね」
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作者名：クロ | 作成日時：2019年6月1日 15時
