47、甘い毒 ページ8
「ま、いいけどさ。死なないでよね、オレの嫁候補なんだから」
「死ぬような試験だったら試験にならないと思うの」
「それもそうか」
頷いてイルミが青い腕時計をはめたのを確認すると、私はコップを持ち上げる。
すると、屈んでイルミがコップに顔を近付けた。
「飲んじゃダメよ」
「わかってる。身代わりにならないからって失格にされても困るし。……うーん、匂いじゃ何が入ってるかわからないな」
意を決して、喉に流し込む。少しの甘さが舌先を刺激して、胃に落ちて。
全て飲み終わったと同時に、扉が開いた。
「味、あった?」
甘かったと返事をしようとして、咳が出る。血が、咳と共に口から溢れた。
イルミが此方を凝視してる気配がする。頭がぐらぐらする。内蔵をやられている、感覚。
「ねえ、」
「……甘、かった」
味を伝えれば、イルミはぶつぶつと何事かを呟き始めた。
私はふらつく足を動かし開いた扉へと向かおうとして、……何故か、イルミに横抱きにされた。
「歩けるわよ」
「今の歩きじゃ遅いし、キミに死なれちゃ面倒だからね。次の部屋まで休んでてよ」
返事の代わりに、咳と血が出る。イルミの無機質な瞳が此方を向いた。
「ソフィアって、毒は慣らしてないんだね」
「慣らす必要が、なかったから」
「そう」
慣らす必要がなかった。イルミは、きっとその意味を誤解しただろう。
普通の人間は、慣らす必要なんてない。けれど私は、人間じゃないから慣らす必要がない。
私には、私を不死にしている自己治癒能力がある。怪我は癒し、病気にかからず、毒は時間をかけて解毒する。死しても獣性によって回復する。
だから慣らす必要なんてない。死ぬことがないから。
今のだって、かなり時間をかければ解毒する。大体、12時間くらいだろうか。
もう一度咳をすると、血の香りが口の中に広がった。ぐらりと目の前が揺れる。
私の様子から状態を感じ取ったのか、抱き上げられて歩いているのに揺れが小さくなった。
「ねえ。なんで、赤い方をつけたの」
「さっきも、答えたわよ」
「キミだって毒で困ってるだろ」
視線だけで見上げれば、揺れる視界の中でイルミが眉を寄せていた。さらりと黒い髪が流れる。
「……私の身代わりになんて、したくなかったから」
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勿忘草 - 普通にハンゾーが可哀想www (2020年6月20日 15時) (レス) id: a494dee2c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロ | 作成日時:2019年5月4日 21時