75、長男と三男 ページ36
「奇遇だね、まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんて。実はオレも次の仕事の関係上、資格を取りたくてさ」
「別に、なりたかったわけじゃないよ。ただなんとなく受けてみただけさ」
「そうか……安心したよ」
イルミの纏う空気が変わる。威圧をするように、彼のオーラが揺らめき始めた。
目に見えて怯え始めるキルアに向かって忠告する……あの人は、誰だ。
(きっと、”暗殺者”のイルミだ……)
キルア曰く、ゾルディック家では生まれた時から暗殺者として育てられるらしい。ともすれば弟を育てるにあたり、暗殺者の面が色濃く出てもおかしくない。というより、家族だからこそ暗殺者としての面が出るのかもしれない。
試験中接したイルミとこのイルミ、どちらが本当の彼なのかなんてことは考えない。この世に物質としてある限り、どうしてもそこに多面性が生まれるから。
「陰を糧に動くお前が唯一喜びを抱くのは、人の死に触れたとき。お前はオレと親父にそう育てられた。そんなお前が、何を求めてハンターになると?」
ゆらゆらと纏のままオーラを妖しく揺らめかせ、イルミが問う。キルアは呼吸が荒くなっているのにも気付いてない様子で、じっとイルミを見ていた。
「確かに、ハンターにはなりたいと思ってるわけじゃない。だけど、オレにだって欲しいものぐらいある」
「ないね」
「ある! 今望んでることだってある!」
互いに間髪入れず言い合う。けれど喧嘩と言うより、一方的な説教をしているようにしか見えない。聞いていて悲しくなるほどに早い否定。
「ふぅん。言ってごらん、何が望みか」
恐れ半分、怯え半分といった様子でキルアが俯く。
「どうした? 本当は望みなんてないんだろ」
「違う!!」
悲鳴に近い声だった。圧力と自己に挟まれて、苦しんでいる声。
「ソフィアと……ゴンと、友達になりたい……」
(ああ、)
「もう、人殺しなんてうんざりだ……二人と友達になって、普通に遊びたい」
(とても、悲しい)
喉の奥が熱い。胸が何か鋭いもので切り裂かれたように痛い。
とっくに友達だと思っていた。けれど、それは私がそう思っていただけだったのだ。
キルアは友達になることがどういうことか、知らないんだ。知らないことが当たり前だったから。
(だからあの時、姉貴がいる気分、なんて言ったのね)
友達がどういうものか、知らなかったから。
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勿忘草 - 普通にハンゾーが可哀想www (2020年6月20日 15時) (レス) id: a494dee2c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロ | 作成日時:2019年5月4日 21時