42、緋の目と紅の目 ページ3
クラピカは私に気がつくと、軽く身を硬くしてから安堵したように部屋に入った。
「ソフィアか。おはよう、ここにいたのだな」
「ええ、来たのはついさっきよ」
「そうか。私は鍛練をしておこうと思ってな」
そう言った彼は、繋がった二本の木刀を取り出すと素振りを始めた。
することもないから、真剣な表情で木刀を振るクラピカを、じっと見つめる。切っ先のブレもなく木刀を振るう姿は、まるで剣舞のようにも見えた。
「……すまない、そんなに見つめられると心臓に悪いのだが」
「え? ごめんなさい。綺麗だったから、つい」
「そんなことを言われたのは……初めてだ」
目を見開いて、クラピカの頬が染まる。ふいっと目を逸らした彼は、素振りを止めて私の隣に腰を下ろした。
そちらに目を向ければ、少し思案するように真剣な表情になったクラピカと視線が絡まる。
「貴女の目の色は、生まれつきか?」
「ええ。あまりない色なのかしらね、不思議がられるのよ」
「そうか……。ソフィアは、何のためにハンターになるんだ?」
真っ直ぐな眼差しを向けられて、少しだけ困って眉を寄せる。私には、何のためになる、みたいな目標はない。
「流れで参加したから……そういったのはないの。ごめんなさい」
「そうか。私はな、仲間たちの眼を取り戻すためにハンターの資格を得ようと思ったんだ」
「眼?」
「……緋の目。七大美色の一つとされる、鮮やかな緋色の目のことだ」
此処ではない遠くを見ながら、どこか悲しい表情で彼が語る。
幻影旅団という盗賊に一族を殺されたこと。その上、眼まで奪われてしまったこと。復讐するために、力をつけていること。
「眼を取り戻し、必ず一族の元へ返す。そのためなら、何だってやる」
強い決意が現れている横顔。瞳は揺れていて、どこか危うげな雰囲気だ。
きっと彼は、仲間の眼があるのならば死の縁にだって平気で立ってみせる。
勿体ない、と思った。私が綺麗だと思った彼が、呆気なく死んでしまいそうなことが。
「クラピカ。全てが終わったら、何がしたいの?」
「え? ……考えたことがなかったな」
きょとんとして言うクラピカは、本当に考えたことがないのだろう。それが、少し物悲しい。
「全てが終わったら、か……思い付かないな」
思考を巡らせて、困ったように笑う。そこには、どうしようもない孤独が滲んでいて。
「思い付くまで、復讐はダメよ」
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勿忘草 - 普通にハンゾーが可哀想www (2020年6月20日 15時) (レス) id: a494dee2c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロ | 作成日時:2019年5月4日 21時