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「ふじ、藤ヶ谷、」
血で濡れた右手が、一度宙を舞ってから、俺の頬をかすめると、ゆっくりと撫でていく
引き寄せるようにして、力が加わり北山は目をつぶった。応えるように北山の後頭部を抱き、涙でぬれた唇にそっと口づけた
触れるだけの優しいキス
名残惜しそうに離れたそれを見つめ、未だ涙に震える北山の顔を肩に押し付けた
泣いているのを彼に察せるわけにはいかなかった
それなのに、我慢できずすすり泣くのを、察しのいい彼は気づいてしまう
「藤ヶ谷泣いてるの?」
「ちがう、かふん」
「ふふ、そっか花粉か」
甘えるように首筋に顔を埋めた北山の腕が、背中にまわった
粉々になった写真たてからは、俺と北山が二人で笑っている写真が覗いていた
暴れまわり、荒れた心を落ち着かせようと手にとろうとして落としたのかとしれない
「ねえ北山」
「ん?」
「結婚しよっか」
「ふはっ、なんか色々ぶっ飛ばしてるけど」
「だって、いまさら」
好きなんて伝えたことはなかった
それでもいつの間にかそばにいた
そばにいるのが当たり前だった、そんな環境に甘えていた
お互い好きという感情を受け止めあい、なんとなく側にいた
キスも手を繋いだこともなかったが、それでもいいと思っていた
いつか、いつか伝えようと思っていた
そんな俺を急かせようと、北山の視力は奪われたのだろうか、それなら俺には責任をとる必要がある
落ち着いたのか肩に顎をのせ、頭を俺の方に傾けた北山の髪が耳にあたって、少しくすぐったい
「ねえ今までの俺とは違うんだよ。俺はもうお前の足枷にしかならない。見つめ合って気持ちを伝えることも自由に触れることもできない。重荷になること、わかってて言ってるの」
「ううん、そこまで考えてない」
「は??」
「でも、そんなこと考えなくてもいいくらい、お前を自分のものにしたいと思った。それじゃダメかな」
「……どうなっても知らねえからな、俺は、俺は離さないから」
自分でいって恥ずかしかったのか、再び肩に顔を押し付けられる
無理やりそれを引きはがして、顔を包んで顔を合わせさせた
今度はしっかりと俺を捉え、きっと彼の頭の中には今の俺の顔が思い浮かんでいるだろう
「俺も離さないから安心してよ」
今度はゆっくりと、深く、味わうように唇を合わせた
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ばなを(プロフ) - ありがとうございます!不束者ですがよろしくお願いします(^^) (2018年9月19日 2時) (レス) id: a966f57933 (このIDを非表示/違反報告)
みむちゅん(プロフ) - ばなをさんはじめまして。 昨年ばなをさんの作品を見させていただいていたのですが、一時的に公開してくださりまた見ることができました!! ありがとうございます。陰ながらばなをさんを応援しておりましたので、とても嬉しかったです。これからも頑張ってください! (2018年9月17日 10時) (レス) id: e8c437355d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ばなを | 作成日時:2017年5月24日 21時