不完全恋愛【不死川実弥】

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初めから､彼が働くバーに足を踏み入れた時から
何となくこうなってしまうんじゃないかと思っていた。


長身に、整った顔。
女の扱いが上手くて、
年上の余裕があって欲しい言葉をくれる。

実弥に向けるものと同じような感情を抱いたわけではないけれど、私のこの乾ききった心の中を満たしてくれたのは間違いなく宇髄さんだった。






＊





部屋に入った瞬間から感じた、女性の影。

洗面所に置いてあるスキンケア用品と歯ブラシ。
一人分ではない、二〜三人分だ。

彼にとって私は、その中の一人に過ぎない。
特別でも何でもない。
わかってる、ちゃんと分かってるよ。

でも…





『お願い…っ、今だけでいいから、
ちゃんと、愛してほしいっ…。』


｢っは、可愛いな、…愛してるよ、A。｣



ほらね、ちゃんと言葉をくれるんだ。
だから何も見てない、何も。






＊






気怠い体を起こし、スマホをタップすると
時刻はちょうど午前十時だった。
通知は二件。
ドラッグストアから特売のお知らせと
メッセージアプリのアンケート。

実弥からは、ない。



｢ん、起きた？体へーき？｣

もぞもぞと後ろから抱きしめられる。
お互いに服を着ていないからか、ダイレクトに体温が伝わってくる。


『うん、大丈夫。』

｢そか。なんか作るわ。｣


サンドイッチくらいなら出来っかな〜なんて言いながらベッドから抜け出そうとしている背中に抱きついた。



これには自分でも驚いた。
事後に、行かないでといわんばかりにその背中に縋ったことなどは実弥にすらない。




｢…かわいーとこあるじゃん。｣

『ごめん、
……あと少し、このままでいさせて。』





背中が少し濡れた事に気付いたのだろう。
彼は何も言わずに、回された私の手を握った。








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(唯梨担当部分、終了)


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