不完全恋愛【不死川実弥】

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｢ん、乾杯｣

『かんぱぁい…』



さすがはバーテンの家。
数種類のリキュールと、割り物が揃っていた。
飲みやすいやつ、とオーダーしただけで
私好みの飲みやすくて甘い、カシスとアールグレイティーのカクテルが差し出された。


｢彼氏、帰ってくるの明日の夜だろ？
介抱してやっから、とことん飲めよ。｣


宇髄さんは職業柄お酒が強すぎる。
先程からウイスキーのロックを飲んでいるのに顔色ひとつ変えない。
実弥なんて、飲んで帰ってくるとだらしない顔でA〜…なんて言って…



『あぁもうやだ！忘れたいのに！！』

手に持っていたグラスを傾けてゴクゴクと飲み干していく。
まるで酒を覚えたての大学生のような飲み方だ。



｢はは！おもしれぇ！｣


ゲロだけは吐くんじゃねーぞ！と彼は私の二杯目のお酒を作りにキッチンへと向かって行った。






＊





『んん、ねっむい。』


｢あんだけ飲めばそうなるわな。｣


ほらこっち来いよ、なんて手招きをされる。
お酒のせいで警戒心などもはや皆無、体は自然に動き胡座をかく彼の上に座ってしまう自分がいた。



こどもみたいに頭を撫でられ、
彼の胸へと体を預ければ心地よい心臓の音が聞こえてくる。




『ずるい…。』

｢でも好きっしょお前、こういうの。｣


彼の顔が近付いて、それが合わさる寸前に
｢目、閉じろ｣なんていうのはきっと魔法の言葉だろう。





数年間、当たり前だが彼以外とキスをしたことはない。
久々に味わう違う唇。
いつものより少し厚くて、あたたかい。
ほんのり程度に香るウイスキーと、煙草の苦味。


どれをとっても、私の理性をじわじわと溶かすのには十分だった。




｢…また、酔ってるからって言い訳でもしとけ。｣

首にキスを落とした彼がまた近付いてくる。
二度目のそれの前、私は彼の唇へ人差し指を置いて制した。


なんだよ、とわかりやすく不機嫌そうにしている。









『酔ってないよ……はじめから。』


それを聞いた彼は
悪ぃ女だな、お前。と笑った。



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