蜃気楼*30 ページ30
F side
家に帰れば、緊張が解けて安心したのか、珍しく俺に甘えてきた。
はやくひろとしたい、だなんて、海では言ったし、
もうどれくらいぶりかに風呂にも一緒に入ったけれど、
こうしてひろが俺の腕の中におさまって、なんてことない話をしたり、お互いの温もりを感じて、すごく心が満たされて、そんな気は起きなかった。
風呂を出て髪を乾かして、同じシャンプーと石鹸の匂いを纏って、同じベッドにもぐりこむ。
あたたかくて、心地いい。
ベッドの中で、ひろをぎゅうぎゅうに抱きしめたり、
ぎゅうぎゅうに抱きしめられたり。
お互いがそこにいるのだ、と存在を確かめるように抱きしめあって、キスをした。
ひろが俺の首元にぐりぐりと額を押し付けてくる。
洗いたてでふわふわの髪が首元をくすぐって、そこに顔を埋めるといい匂いがした。
「…好きだよひろ」
「ん、おれも好き…たいすけ」
疲れているのかだんだんとまぶたが落ちていくひろの背中を優しくなでて、眠りへと導く。
腕の中で無防備にすやすやと寝息を立てるひろを、どうしようもなく愛おしく思って、
こんなんで起きたりしないけど、起こさないようにそっと額と頬、唇にキスを落とした。
…こんなことがないと、わからないなんて、幸せに鈍くなっている自分に少し腹が立つけど、
ひろを失って初めてわかるひろの大切さ、愛おしさ。
奇妙な体験だったけれどとても大事なものを得たような気がした。
自分ばかりだとどこか思っていて、
相手の気持ちって長くいるとわかるようでなんとなくわからなくて、
友達ならわかるかもしれないけどこうして恋人となるとまた話は違って、
思っていることも言わなくても伝わるような気がしてしまうだけで、
実際は伝わっていない、それは俺も、ひろも。
この言葉の行き場がなくなってしまう前に、
何度だって伝えよう、
「……ひろ、愛してるよ…」
ぎゅう、と抱き直して、
もうすっかり眠っているひろの耳元で、愛してる、愛してる、と何度も囁いた。
言葉は小さいとも思う。
この体温しか信じられないような気もする。
それでも言葉が必要だって、
さっき、海でひろが教えてくれた。
"…たいすけ、"
"…俺も、愛してる"
あの言葉にどれだけ心がほどかれたか、
それがわかった俺は、伝え続けていこうと決めた。
ぎゅっとまた抱きしめ直して、目を閉じた。
明日も、ひろの笑顔が見られる幸せを噛み締めながら…
(fin?)
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しょこら(プロフ) - Hina.Tamaさん» Hina.Tama様、お読みいただきありがとうございました!!そう言っていただけて嬉しいです。。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
Hina.Tama(プロフ) - しょこらさん初めまして。本編完結おめでとうございます!ハラハラドキドキな展開に毎日更新を楽しみにしていました。素敵なお話本当にありがとうございました!! (2018年7月27日 0時) (レス) id: ca7c7000b2 (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - 日美さん» 日美様、ありがとうございます!そのように言っていただけて本当に嬉しいです。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
日美(プロフ) - 初コメ失礼します。更新お疲れさまでした。初めて更新されたときから毎回更新がとても楽しみな作品でした。とても大好きなお話です!また次のお話も楽しみにしています……!! (2018年7月26日 23時) (レス) id: 86fe79ef6e (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - askiiii...xxxさん» ありがとうございます!更新頑張りますのでよろしくお願いします!⊂*`∀´⊃ (2018年7月18日 10時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこら | 作成日時:2018年7月13日 12時