happIness*1-19 ページ19
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本当はカーテンコールの途中で抜けるはずだったのに、
結局緞帳が降りるその瞬間まで私は席に座っていた。
まさか、出ているとは思っていなかった人がそこに立っていて、
出て来た瞬間、嘘でしょう、と口元を両手で押さえてしまったほどだ。
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浩樹くん演じる軍人と敵対する、とてもおいしい役で登場したのは、
数年前、私の恋人役を演じた"泰介くん"だった。
大きいトイプードルみたいだった彼は、あの時の面影を残しながら
もっともっと大人になっていた。
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演技力も、歌唱力も、あの頃とは比べ物にならない程で、
こんなに堂々と舞台に立つ人だなんて、
あの時の私はこれっぽっちも想像していなかったのに。
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ああ、どんどん前に進んでいるんだと思ったら嬉しくなって、
泣きながら私のことが好きだと言ったあの日がとても懐かしく感じられる。
あれから現場が被ることも、当然個人的に会うこともなかったけれど、
今でも舞台に立っていると知って、嬉しくなった。
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終演後、浩樹くんの楽屋に挨拶に行ったら
彼は見慣れた顔で、にっと笑った。
面白い話だった、と感想を告げた後にまた死んじゃったね、と付け足すと
生き延びる役のオファーが来ない、と神妙な顔で返された、
もうそうなると需要と供給が一致しすぎているのでは、としか思えない。
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「Aは？次なんかやらないの？」
「この前やったばっかりだから。今選んでるところ」
「そっか」
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浩樹くんはいつからか私のことを"姫"と呼ばなくなった、
それは距離ができたように見えて近づいていて、
この距離感のまま、いつかまた、一緒にお芝居ができたらな、と思う。
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どうして呼び方を変えたのか、聞いたことはないけれど、
「心の中では姫って呼んでるよ」と言われたことがあって、
なんだか面倒臭そうな気配を察知したのでそれを追求するようなことは聞いていない。
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「泰介出てたの気づいた？」
「気づいたよ！びっくりしちゃった」
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思い出したように投げられた言葉に頷くと、
あいつすげー歌うまくなったよな、と兄のような顔をして言う。
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「上手になってたね…会えるかな？」
「ん〜？さっきそこらへん歩いてるの見たけど」
「あとで探してみる」
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私が今日観に来ていることを知らないらしい彼に、
何て声を掛けようかと想像して楽しくなっている私を見て
浩樹くんが、悪い顔してんなぁ、と言って笑った。
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