happIness*1-12 ページ12
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「おかえり」
「ただいまあ」
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家主がいるリビングは、
暖房がついていて暖かい。
翔くんはソファに座って携帯を弄っていた。
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「ご飯は？」
「まだ。待ってた」
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当たり前のようにそう言うから、思わず時計を見てしまった、
どれくらいの時間待っていたんだろうか、
用意して家を出るべきだったかもしれない。
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「えー、ごめんね。作って行けばよかった」
「いや別に大丈夫、二度手間だろ」
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髪の毛をシュシュでまとめながらそのままキッチンへ移動する、
すぐ準備できるよ、と声を掛けたら
携帯を置いてソファから立ち上がった彼もこちらへやってきた。
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「今日なに？…すげえ量の緑はさっき見たけど」
「今日はね、緑と、生姜焼き」
「おー、きゃべつの千切りは諦めましたね？」
「はい、手っ取り早くレタスを手でちぎりました」
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えへ、と笑ってみると
楽しそうに翔くんが笑うから、ほっとする。
千切りは、途方もない作業のように思えていつも途中で心が折れる、
あれは、何も考えたくない時に無心でやるものだと思う。
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「…A指輪は？」
「え？あ、机の上」
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キッチンで動く私を見ながら、
翔くんが少し小さな声で聞いてくる。
ダイニングテーブルを指さして、そこにあると示すと、
彼は腕を伸ばして、チェーンを指に引っかけるようにして取った。
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「今日ニットがこれだったから、見えちゃうでしょ」
「ニットを変えようという考えには」
「至らなかった、だってこれ去年からずっと着てないやつだもん」
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今日着ているニットは、首元が空いていて、
チェーンの長さから考えて、これを付けるには少し不安だった。
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「これ可愛いでしょ？」
「可愛い可愛い、Aは何着てもかわいい」
「あは、適当(笑)」
「可愛いから指輪つけてて」
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私の後ろに回り込むようにして、
チェーンに通されたそれを私の首につける、
さながら首輪のようだ。
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"婚約指輪"だと、彼は言う。
そのつもりで買って、そのつもりで渡したのだ、とも。
私はそれが嬉しくて、だけど時々それが怖く感じる、
未来なんて、脆くて壊れやすいものだって、私は知っているから。
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わざと指輪をつけなかった、
それが正当化するように、首元があいたニットを理由にして。
朝、彼の言葉を聞いたから。
今も未来も、一瞬で壊れてしまうことを、
私たちはよく知っているから。
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