9話 夏油傑視点 ページ10
翌日、私は彼女のバイト先の一つであるコンビニを訪ねた。
仕事帰り突然コンビニに寄ると言い出した私を見て、親友はゲラゲラ笑っていた。
普段庶民じみた所に行かない私が、血塗れた服をわざわざ着替えて、護衛も付けず車も出さずにコンビニに行くことが余程面白いようだ。
コイツに構っている暇はないので無視を貫いた。
「いらっしゃいま…あ!」
「おや、奇遇だね。」
思ってもいない言葉がするりと口から出る。
私の姿を見て驚いた声を上げた彼女は、可哀想なことに何も知らない。
それを内心ほくそ笑みながら、飲み物のコーナーで少し思案する。
これは完全に私の予想だが、彼女は甘いものが好きそうだ。
目に付いたペットボトルと、自分が飲む用のブラックコーヒーを手に取ってレジへと向かう。
「大丈夫……とは言えないんですけど…金欠、なので…」
私の問いに彼女は言いにくそうに目を伏せた。
長い睫毛の下で、栗色の瞳が悲しげに揺れている。
形の良い整った桃色の爪が、ぐっと柔らかな手の甲に食い込むのが見えた。
あぁ、そんなにしては痕がついてしまう。
「君は、よく頑張っているんだね。」
本当は涙を堪えるように爪を立てる手を握ってやりたかったが、いきなり手を取って警戒されるのは御免だ。
私の言葉に、俯いていた顔がパッと上を向く。
ふぁさ、と揺れた髪は焼きたてのパンのように、温かな茶色をしていて、ふわふわでつやつやだ。
この髪型はショートボブと言うんだったっけ、なんて昔見た雑誌の記憶を辿れば、眉の上で短く切り揃えられた前髪が照明の光を浴びて淡く光った。
栗色の瞳の向こうに、目を見開いた私が佇んでいる。
ガラスのように透き通ったその瞳は、私の姿を鮮明に捉えていた。
「あ、ありがとう、ございます」
薄い桃色の唇が小さく開き、まるで吐息のような声を漏らす。
あぁ、なんて、なんて可愛らしい。
きゅぅと瞳が小さくなり、涙の膜が薄く張る。
きっと長いこと労りの言葉を貰えていなかったのだろう、たった一言、名も知らぬ男から貰っただけでこの反応だ。
涙で震えた声でお礼を言う彼女を見ていると、胸を締め付けられる思いだ。
「頑張ってる君に、ご褒美。」
ぶわりと赤く色づいた頬は、まるで熟れた林檎のよう。
え?と戸惑う声を上げる彼女の前に、キャラメルミルクティーをもう一度押し出して、君のだよと告げた。
あぁ。
あぁ。
早く攫ってしまいたいな。
ねぇ?
三日月Aちゃん。
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或 - 更新止まっちゃってる感じですかね…待ってます(泣) (2021年3月29日 23時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - 続き楽しみです! (2021年3月10日 21時) (レス) id: f345edd9e1 (このIDを非表示/違反報告)
或 - この作品の夏油さんに沼りました!更新楽しみにしてます!!! (2021年2月27日 20時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
蛹(プロフ) - 緑の白猫さん» コメントありがとうございます!頭が切れて策士で、人畜無害な笑顔で着々と夢主の外堀から埋めていく夏油傑大好きなんですよ〜!!!ぜひぜひ嵌ってください (2021年2月27日 16時) (レス) id: 3eead30ed0 (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - やっべぇこの作品の夏油さんに嵌まりそう。てか嵌まらせて下さい← (2021年2月27日 10時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蛹 | 作成日時:2021年2月15日 22時