13話 ページ14
「私は、人には言えない仕事をしているだろう?
一般人には危害を加えない、というのがウチの家訓だが、やはりどうしても怖がられてしまう。」
伏せられた目に感情は乗らない。
だから、夏油さんが何を考えているのかは分からない。
どうして今更そんなことを聞くのだろう、と不思議に思いながらも私は口を開いた。
「怖いなんて思いませんよ。
だって夏油さんて、とても優しい方じゃないですか」
私の言葉に、夏油さんの目が大きく見開かれる。
虚をつかれたように夏油さんは押し黙ってしまった。
あれ?ヤ〇ザに優しいって言うのは失礼だったかな。
焦って「こないだはコンビニバイトでキャラメルミルクティーくれましたし!!…あ、美味しかったです!ありがとうございました!」「お金も嬉しかったです!!欲しい服沢山買えました!」と矢継ぎ早に言葉を並べれば、
夏油さんはあはは!と大声で笑い始めた。どうした。
「そうか。そんなことを言われたのは初めてだよ」
えっ?こんなに紳士なのに…?
今だって夏油さんは、背丈の小さな私の歩幅に合わせて歩いてくれている。
「この服だって、ずっと欲しいなって思ってたヤツで…夏油さんがくださったお金で買えたんです!」
「それは良かった。…でも、私は君が思っているほど優しくないよ」
着ている服を指差してそう言えば、夏油さんはニヤリと悪どい笑みを浮かべて私を見た。
そんな顔もできるんだなぁ。
こういう顔で、敵を拷問したり痛ぶったりするんだろうか?
そんなことを思っていたら、いつの間にかビルの前に着いていた。
施設はここから自転車で5分もかからない。
「今日はありがとうございました」
「うん。お疲れ様。ゆっくり休むんだよ」
会話を切り上げて、深々とお辞儀をする。
夏油さんはにこやかに微笑んで、私の身を案じてくれた。やっぱりこの人はいい人だ。
「じゃあ、私は帰りますね」
「あぁ、ちょっと待って」
自転車に乗り帰ろうとした私の背中を夏油さんが呼び止める。
振り返った私の瞳に映ったのは、とろけるような笑みを浮かべた夏油さんで。
薄い唇が開いて、言葉を紡ぐ。
それはまるで、砂糖菓子のように
甘くて、どろりとして、
「その服、とっても似合ってるよ」
ありがとうございます、と絞り出した声は彼に届いていただろうか。
真っ赤になった顔を隠すように、私は慌ててペダルを漕いだ。
(……その顔と声で口説くのはズルいよぉ……)
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或 - 更新止まっちゃってる感じですかね…待ってます(泣) (2021年3月29日 23時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - 続き楽しみです! (2021年3月10日 21時) (レス) id: f345edd9e1 (このIDを非表示/違反報告)
或 - この作品の夏油さんに沼りました!更新楽しみにしてます!!! (2021年2月27日 20時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
蛹(プロフ) - 緑の白猫さん» コメントありがとうございます!頭が切れて策士で、人畜無害な笑顔で着々と夢主の外堀から埋めていく夏油傑大好きなんですよ〜!!!ぜひぜひ嵌ってください (2021年2月27日 16時) (レス) id: 3eead30ed0 (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - やっべぇこの作品の夏油さんに嵌まりそう。てか嵌まらせて下さい← (2021年2月27日 10時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蛹 | 作成日時:2021年2月15日 22時