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過去:幼い頃から、本が好きな少女だった。紙芝居、絵本、児童書、小説、ドラマ、劇、映画。形こそ変われど、文字や物語という文化に心を奪われ続けた。
ずっとそういう子供だった。大人しくて、本が好き。友達も指で数える程度しかおらず、行事はどこの輪にも混ざれずに、先生に言われてようやく入ることができた。他の子たちにとって、瑠璃は単なる空気だったのだろう。けれど瑠璃はそれで構わなかった。そのときから、彼女には本と図書室という心強い味方が居たのだから。
そして何より、周りに思われてる私のままでありたかったのだから。
平凡で平坦な、愛しい変わらない日常に生きていた17歳の春。住んでいた地域で大戦争が起こる。
他地域に比べて、住んでいたところの被害は少ないほうだったろう。壊れた家こそあれど、死亡者の話はあまり出回らなかった。瑠璃の家族も誰も死ななかった。
しかし、テレビの向こう側で起こる戦争と、火と、血。身近で襲われる可能性のある牙があり、あれがもし、もし自分や家族に起こったら──。そう考えるだけで、恐ろしくてたまらなかった。
暫くして戦争が完全に地域から去り、学校が再開したとき、瑠璃は一つ違和感を覚えた。
図書室の中から、次に読もうと目をつけていた本がなくなっていたのだ。それだけではない。あの本も、あの本も、あの本も!恐らく学校は、もう一度戦地になることを避けたかったのだろう。毎日来るたびに、知っている本が消えて行く!焦った。怖くなった。次々になくなる本。入れ替わるラインナップ。安心できるはずだった図書室という空間がどんどん変わっていくのが、あまりにも恐ろしくて。味方を失くしてしまったのと同じ絶望感が、身体の隅々を駆け抜けて、逆らえなくしてしまった。
このとき、それまでもあった「変化」への恐怖が確立してしまう。必要だったはずのそれは彼女のなかで、日常すらも壊す存在になったのだ。
けれど、そんな彼女にも変わる必要ができた。6組織の設立を聞いたのだ。図書館の破壊事件も起き、当時の彼女はどこかで「何かしなければ」と……何かひとつ、切っ掛けを手に入れなければと思い立ったところだった。そして切っ掛けを手にいれた。ここが転機だ。
他でもない大好きな「本」を守るために。図書館協会に所属し、現在に至る。
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作者名:風雪妃月 | 作成日時:2022年1月2日 2時