34 ページ35
:
15年ぶりに会えたあの夜から3日後、母は父の元へ行ってしまった。
もう目を開けることも、何かを話すこともなく、
ただ幸せそうに笑って、ゆっくりと眠りに付いた。
そういえば、
実は幽霊じゃないと言えないままだった。
向こうに着いて、
私がまだこっちにいると知れば、きっと後で心底怒られてしまうだろう。
次に会えるのが、いつになるのかは分からない。
何十年も先かもしれないし、
残念ながら、案外早く会えるのかもしれない。
でもこの歳で親に叱られるのはきっとダメージが大きい。
それまでに父が宥めておいてくれると期待して、
母に許してもらえる言い訳を考えておかなければ。
『お世話になりました。本当に。』
「とんでもない。こういう仕事ですから。」
火葬と納骨を済ませ、
母の世話をしてくれた看護師さんと榊先生に会いに病院へ。
この人がいなければ、
きっと母の最期を見守ることは出来なかった。
何も知らないまま、
何も言えないまま、
ずっと自分を責めながら生きていたと思う。
それでもやっぱり、
どうしても、この体の呪いが憎い。
無力だった頃の自分が憎い。
でもあの夜のおかげで、ほんの少しだけ、
父と母が愛した私を、自分も愛してみようと思えた。
誰かの愛に手を伸ばしてみたいと、
少し、思えた。
そしていつかは、
過去も呪いも許せる時がくるのかもしれない。
「無理はほどほどに。ここ数日は寝ていないようですし…」
『先生も。もし何かあれば、また高専に連絡してください。』
一応、昨夜のうちに祓えるだけの呪霊は片付けておいた。
結界も張らずに3日も留まれば、やはり集まって来る。
せめてここを去る前に、
呪い嫌いな先生の代わりに出来るだけ遠ざけておきたかった。
「では、また。」
『はい。ありがとうございました。』
タクシーに乗り込み、
駅に向かいながら行きは真っ暗で見られなかった景色を眺める。
初めてここに悟を連れて来た時と同じ。
何年経っても、変わらない街の景色。
少し寄り道をして海岸沿いを走り、窓を開けて顔を出す。
雲一つない青空と太陽の光が溶け込んだ海。
あの綺麗で優しい瞳と同じで、逸らせず、惹き付けられる。
帰って、貴方に話したいことがたくさんある。
連絡もせずに何日も放って置いて、きっと機嫌を損ねた。
今回は簡単には許してもらえそうにないけど、
それでも早く、貴方に会いたい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1100人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
妃 - すごく素敵な作品でした！個人的にその後の恵を見たいです。続編も楽しく読みます。 (2020年11月27日 20時) (
レス) id: edafa70660 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初めまして。昨日の夜からこのシリーズ全て読ませて頂きました、振り回される五条凄く好きです、主人公も好きです…！こちらは完結でしょうか？もし続きあれば楽しみにしています！ (2020年11月17日 11時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - とっても面白く、素敵な小説で何回も読み返しています(><)!!アンケートの件ですが「チューベローズの初恋 続」後の9年間のお話を希望します...!!! (2020年10月18日 1時) (レス) id: ff2316c362 (このIDを非表示/違反報告)
SS(プロフ) - 9年後のお話希望です！新しい方のお話とも悩んだのですが、まだチューベローズの五条悟が読みたいです、、！ (2020年10月17日 20時) (レス) id: 9f946892a2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆで卵(プロフ) - 度々コメント失礼します！チューベローズの初恋 短編集を読んでみたいです…！！！元許嫁のお話もとても面白そうで悩んでしまいましたが、チューベローズの初恋をもっと読みたいなと思いました。新しい作品も応援してます！！ (2020年10月17日 0時) (レス) id: 18a070aa90 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：縞 | 作成日時：2020年5月23日 12時
