チューベローズの恋人【呪術廻戦】

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―…バキィッ―



「っ、…」







軽く振り下ろされた右手の衝撃で
馬鹿みたいに簡単に吹っ飛ばされ、
鈍い音と一緒に体は床に打ち付けられる。





「はーい。また僕の勝ちー。」

「…。」





「珍しいよね。恵が僕に稽古頼むなんて。悠仁に追い越されて焦った？」





相変わらず飄々として
デリカシーなんて持ち合わせてない態度と口調。

この人の世話になって随分と経った。
俺にとって、生みの親より大事な人の、大事な人。
最初は納得も容認も出来なくて、
子どもながらにAを盗られた気がして大嫌いだった。

呪術師になってからは、
五条先生もAも飛び抜けて優秀な人材だと改めて理解できた。

そんな人が
俺のために全てを捨てて迎えに来てくれたと思うと、
自然とAと同じように呪術師に、
今度は俺が守れるように強くなりたいと思えた。


認めるのは癪だが、
今Aの隣に居るのは、俺を見下ろすこの人が相応しい。
この世界で唯一Aを守れて、…たぶん幸せに出来る。

―今は、まだ、 俺じゃない。









「……。まあ、背に腹は代えられませんから。」

「そんなに嫌？僕に頼るの。Aさんにはベッタリなくせに。」





「……。」

「恵はさぁ、実力も潜在能力も悠仁と遜色ないと思ってんだよね。あとは意識の問題だと思うよ。」





「……。」

「恵、本気の出し方知らないでしょ。」






「…はあ？」





親指で額を掻きながら
サングラスから気怠そうに覗く青い瞳。

人々を呪いから守りたいなんて、
大層な理由で呪術師をやってるわけではない。

それでも、
半端な思いで命を懸けているつもりはない。









「俺が本気でやってないって言うんですか？」


「やってないんじゃなくて、できてないんだよ。例えばこの前の野球、なんで送りバントしたの？」






「……？」


「自分がアウトになっても、野薔薇の塁を進めたかった？それはご立派。でも悠仁や僕なら、常にホームランを狙う。まあ野球は団体競技だからそれぞれに役割がある。でも呪術師はあくまで個人競技。」






「…他の術師との連携は大事でしょ。」


「まあね。」






大きな体を屈めて、俺の前にしゃがむ五条先生。

ああ―、やっぱり
俺はこの人が嫌いだ。









「でも周りに味方が何人いようと、死ぬときは独りだよ。」








何でも知ってる稀有な瞳も、

いつも余裕を浮かべたその口も、





俺には足りないモノばかり。

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